研究課題
本課題は、今後の気候変化によって極端気象の頻度増が予想されることを受け、日本で起こりうる代表的現象としての台風に着目し、台風による生態系撹乱影響を実験および数値解析に基づいて評価することを目的とした研究であった。特に、本研究では、撹乱後の生態系の葉群機能や構造の回復過程の評価を主たる目的とした。3年間の研究期間において、1~2年目では、野外調査を主体とし、期間後半においては統計的モデル解析評価が重要になってきた研究背景を重視し、モデルを用いた解析的研究に主軸を向けて行った。研究対象は、撹乱後の早期応答が期待される、生態系先駆種であるダケカンバを用いることとした。また、本課題では実際に対象森林周辺で生じた近年の大型台風の再現を試みるため、倒木が生じないが葉群が一掃される生態系撹乱を模倣し、その後の回復過程で見られる炭素動態の諸現象を調べた。実験の結果、時間とともに、生態系の葉群機能応答、および構造応答が顕著に現れ、ダケカンバ種の特徴的応答が示された。この応答は、実際に起きた台風被害によって生じた際の生態系応答を極めてよく再現し、予想通りの炭素吸収量の低下とその後の増加が起きることを実験的に証明することができた。また、この現象を制御した要因の特定を行うための補助的実験も行われ、その後に行った統計的モデル解析の結果と比較をした結果、葉群の形態的応答の動態傾向を統計モデル解析においても裏付けることとなった。このことから、今回のような部分的破壊を伴うレベルの撹乱からの生態系の回復の特徴には、より早期の状態回帰にむけた形態的応答が優先されることを明らかにすることができた。一方で、同レベルの撹乱がさらに頻発化することで生態系の応答が変わりうる可能性は未だ否定できないため、本課題の結果を受け、さらなる調査の継続性が示唆された。
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Trees
巻: 32 ページ: 1789-1799
10.1007/s00468-018-1770-4