研究課題
初年度である今年度は,固定化金属アフィニティクロマトグラフィー(Immobilized Metal Affinity Chromatography: IMAC) を用いて天然水試料からCu-有機配位子錯体の分離・濃縮を行うことを試みた.IMACとは,アガロースに結合したイミノ二酢酸に二価の金属イオンを配位させ,さらにその金属イオンと錯形成する有機配位子を選択・分離する方法である.溶出した試料水は三次元励起蛍光スペクトル (EEM) によって蛍光強度を測定し,IMACによる分離・濃縮の成否を確認した.結合緩衝液としてホウ酸アンモニウム緩衝液 (pH9.0)を用いて配位子を分離し,ギ酸アンモニウム緩衝液 (pH3.5) を溶離緩衝液として使用して分離を行った結果,琵琶湖中に溶存する銅と配位する能力をもつ有機配位子は,三次元蛍光スペクトル測定の結果Ex/Em = 320/380-407 nm 付近にピークを有した.このピーク波長は一般に腐植様物質が示すといわれる波長域である.また、この結合,溶離条件で、約80%の回収率が得られた.また,琵琶湖水中の銅と溶存有機配位子の錯安定度定数の測定をPseudopolarographyを用いて測定を行い,モデル配位子のlogKと半波電位の関係が直線になることを利用して琵琶湖水中には銅との錯安定度定数を算出した.モデル配位としてエチレンジアミン四酢酸(EDTA: logK=17.94),ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA: logK=20.43),1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン(Cyclam: logK=26.50)を用いた.モデル配位子溶液の最終濃度はEDTA・DTPAは200 μM,Cyclamは0.25 μMになるように調整した.結果として,logK=17~18程度のものと,logK=24程度の配位子の少なくとも2種類が存在していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
今年度は実験条件の確立を中心として研究を進めた。琵琶湖水中から有機配位子を固定化金属アフィニティクロマトグラフィーを用いて分離する条件を検討し、また同時にPseudopolarographyを用いて配位子の条件安定度定数を求めることにも取り組んだ.どちらもよい成果が得られたので、次年度以降も計画を進めていくことが可能である.配位子のFT-ICRMS測定については、溶離緩衝液の除去を試みながら進める必要があるので,まだ検討をしなければならないと考えられる.
今後は、琵琶湖水以外の天然水試料からの有機配位子の分離に取り組むとともに,分離された配位子の条件安定度定数を求めること,FT-ICR MSを用いた,配位子の構造決定にも取り組んでいく.構造決定を行いながらモデル配位子の提案を行う.主に陸地からの有機物の流入負荷が大きい試料を用いて研究を進めていくことになるが,余裕があれば海水試料などにも取り組み,比較を行っていく予定である.
研究分担者の早川和秀博士の消耗品購入予定の研究費が149円繰り越しとなった。ホームセンターなどでより安価な物品購入を心がけた結果である。
繰り越された149円は、次年度の研究代表者の消耗品費に加えることとする。
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Scientific Reports
巻: 7 ページ: 37-46
10.1038/srep42102
Journal of Environmental Radioactivity
巻: 153 ページ: 156-166
10.1016/j.jenvrad.2015.12.022