水銀に関する水俣条約が発効され、水銀の人為的排出量の削減に向けた国際的な取り組みが進められている。本課題では全球多媒体モデル、水産統計データ、発生源寄与率解析を統合し、人為排出量削減に伴う環境・生物中の水銀負荷への応答(条約の有効性)を定量評価するための数理手法を構築することを目的としている。H29年度には水産統計データを整理し、発生源を推定するためのポストプロセッサーを構築した。海洋における水銀の滞留時間は大気に比べてはるかに長く、このため、百年スケールの長期シミュレーションに基づく検討が必要である。H30年度には、人為排出量の長期インベントリを作成し、これを用いて、主要な人為排出の始まった1850年以降160年間のシミュレーションを行った。この結果を用いてソース―レセプター(S―R)解析を行い、2010年における、魚類中の水銀の起源を推定した。ソース地域は、東アジア、中央アジア、南アジア、北米、南米、ヨーロッパ、アフリカ、オセアニアの8地域を設定し、レセプターには国際連合食料農業機関(FAO)の主要漁業海域を設定した。S―R解析の結果、海洋の全漁業海域において、過去主要な排出地域であった北米―ヨーロッパが、現在における魚類中総水銀の最大の起源であることが明らかとなった。また、FAOの漁獲・生産・流通に関する全球のデータベース(FishStatJ)を用いて、漁業による水銀輸送量を推計した。
|