本申請課題では、顕微分光法を用いることにより、元素状炭素の特性評価を行うとともに、環境中での風化メカニズムについても解明することを目的としている。令和元年度は、作製した表面増強ラマン基板に対して、カーボンコータにより元素状炭素の一つであるダイヤモンドライクカーボン(DLC)を蒸着し、顕微ラマン分光装置により評価を行った。しかしながら、測定条件を色々と変えて評価を試みたものの、DLCの表面増強ラマンスペクトルは観察できなかった。一方で、基板に蒸着したDLC薄膜を顕微ラマン分光装置によりそのままの状態で評価できることが明らかになったため、DLC薄膜を直接評価することを前提として、DLC薄膜を蒸着するための基板を改めて探索した。その結果、顕微FT-IRに用いるための臭化カリウム(KBr)チップが最適であることを見出し、DLC薄膜を蒸着して評価用サンプルとすることとした。この評価用基板を用いて、紫外線オゾンクリーナにDLC薄膜を紫外線(UV)のみ、オゾンのみ、UVとオゾンの組み合わせで酸化分解したところ、少なくとも本装置条件では、オゾンによる酸化分解は補助的であることがわかった。また、ラマンスペクトル形状の変化からは、酸化分解過程における明確な構造の変化(炭素-炭素結合、炭素-水素結合)は認められなかった。一方で、炭素-炭素結合を反映するピーク形状を詳細に観察することで、わずかな形状の変化が認められた。このことから、酸化分解過程においてDLC構造に大きな変化は伴わないものの、比較的分解しやすい構造の箇所から優先的に分解していることが示唆された。なお、本酸化分解過程での酸素の役割を明らかにすることを目的とし、顕微FT-IRでの評価も行ったが、DLC薄膜の膜厚が不十分であるために評価できなかった。
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