研究課題/領域番号 |
16K00529
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研究機関 | 国立極地研究所 |
研究代表者 |
中澤 文男 国立極地研究所, 研究教育系, 助教 (80432178)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 氷河 / 花粉 / DNA / アイスコア / 天山山脈 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、1)中央アジア半乾燥域の山岳氷河に封じ込められた、極めて保存状態の良好な化石花粉を材料として、過去13,000年間に渡る化石花粉のDNA分析を、高時間分解能・連続で実施すること、2)分析により取得される遺伝情報から化石花粉の種を同定し、3)未だ不明な点が多い中央アジア半乾燥域の過去の植生や気候・環境について、従来の花粉分析を超える詳細な復元を試みることにある。 H28年度は、分析手法の確立(アイスコア中の花粉DNA分析による遺伝情報の復元法)を目指して、数千年前の化石花粉1粒ずつを全ゲノム増幅し、DNA塩基配列を解析する技術について、既存の方法に変更が必要か検討した。ロシアの山岳氷河で取得されたアイスコアを用いて、そこに含まれる様々な年代の化石花粉を利用して実験をおこなったところ、約4870年前の化石花粉においても、実験条件の僅かな変更で遺伝情報を取得できることがわかった。 また、本研究で解析するキルギス天山山脈グリゴレア氷河で掘削されたアイスコア試料のサンプリング、試料中に含まれる花粉種の観察をおこなった。今回サンプリングした、5235~7180 14C B.P.の年代の試料には、トウヒ属花粉が多く含まれていた。今後はこのトウヒ属花粉の種同定を試みる予定である。グリゴレア氷河では、近年の堆積層からもトウヒ属花粉が見つかるため、種レベルでの植生の変遷を議論したり、約7000年前と現生のトウヒ属のゲノム配列の比較が可能になる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
H28年度は、キルギス天山山脈グリゴレア氷河で掘削されたアイスコア試料の切り出しをおこなった。放射性炭素年代測定によって、既に氷の年代が推定されている4つの深度から氷試料を採取した。試料の年代は、5235~7180 14C B.P.であった。試料中に含まれる花粉数は比較的少なく、概算であるが10mLあたり数粒~数十粒であった。見つかった花粉種はトウヒ属のものが多く見られた。 本研究では、数千年前の化石花粉1粒ずつについて、これまで全ゲノム増幅を試みたことがなかった。既存の分析方法に変更が必要か検討する必要があったが、試料に含まれる花粉数は少なく、テストに利用できなかった。そこで、ロシアの山岳氷河から取得されたアイスコアの、約470年前と4870年前の堆積層から抽出されたモミ属とトウヒ属の化石花粉を用いて、実験条件に変更が必要か検討した。その結果、部分的で小規模な変更で全ゲノム増幅できることがわかった。 1万年前後の化石花粉をDNA分析するところまでは至らなかったので、研究はやや遅れていると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
H28年度は、数千年オーダーの化石花粉についても、既存の花粉1粒ずつの全ゲノム増幅法を、反応条件を僅かに変更することで適用できることがわかった。また、氷試料に含まれる花粉は、トウヒ属花粉が優先種であった。H29年度は、トウヒ属花粉の種同定を試みる。増幅ターゲットは葉緑体DNA上の領域とし、プライマーの設計、性能テストを実施する。トウヒ属は世界に約35種が存在する。そして、そのほぼ全種の遺伝情報がWeb上のデータベースに登録されており、種同定に必要な情報は既に揃っている。プライマーの設計・性能テストは平成29年度前半までの完成を目指し、年度後半には種同定の作業に取りかかる。 それと平行して、グリゴレア氷河コアの、1万年前後の氷試料に含まれる化石花粉の濃度と種類を調べ、DNA分析を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
装置の故障により研究実施に影響が出たため、補佐員の雇用ができなかった。装置の故障対応や関連する消耗品購入は、装置を共用する他の予算を優先的に使用したため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
研究の遅れを取り戻すために、補佐員の雇用と、実験前処理を自動化する装置の購入に使用する予定である。
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