研究実績の概要 |
本研究の目的は、1)中央アジアの山岳氷河に封じ込められた、極めて保存状態の良好な化石花粉を材料として、過去13,000 年間に渡る化石花粉のDNA 分析を、高時間分解能・連続で実施すること、2)分析により取得される遺伝情報から化石花粉の種を同定し、3)過去の植生や気候・環境の復元を試みることにある。 キルギス天山山脈グリゴレア氷河で掘削されたアイスコア試料は、想定していたよりも花粉濃度が低かったため、ロシア・アルタイ山脈(中央ユーラシアに位置する)ベルーハ氷河で採取されたアイスコア試料に切り替えて研究を進めた。約470年前のトウヒト属とモミ属、約4870年前のモミ属の化石花粉について、マツ属の種同定用に開発されたプライマーを用いてDNAの解読に成功した。次に詳細な種同定を目指して、種特異性の高いプライマーの開発を進めた。トウヒ属は世界に約35種の存在が知られている。葉緑体DNA上の18領域でプライマーを開発し、14領域から塩基配列データを取得した。この組み合わせの結果、5種まで候補を絞ることができた。その1つに、現在も氷河周辺に分布するシベリアトウヒが含まれていた。このことから、約470年前においても、氷河周辺にはシベリアトウヒが分布していたと考えられた。また、モミ属については、プライマーの開発まで至らなかった。本研究では、約4870年前の化石花粉からDNA情報を取得することに成功したことが大きな成果の1つといえる。また、モミ属の種同定に特化したプライマーも開発した。今後、他の氷河から取得される化石花粉1粒ずつのDNA研究においても、本研究で開発したプライマーや分析方法が広く適用できることも大きな成果と考えられる。
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