研究課題/領域番号 |
16K00530
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
伊藤 彰記 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 気候変動リスク情報創生プロジェクトチーム, 主任研究員 (00419144)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 地球環境変化 / 大気由来の水溶性鉄沈着 / 鉱物起源エアロゾル / 燃焼起源エアロゾル / 全球エアロゾル化学輸送モデル / ダスト発生スキーム / 土壌水分量 / 植生被覆率 |
研究実績の概要 |
大気中に浮遊する鉱物起源のダスト粒子は、ある風速を超えたときに発生し、その発生量は土壌水分量、地表面土壌粒径分布、植生被覆率などによって大きく左右される。そして、ダストにより供給される鉄は、食物連鎖を通して海洋生態系へ影響を与える。特に、南大洋域は溶存鉄が植物プランクトンの生育にとって制限要因となっており、その広大さから全球炭素循環を理解する上で極めて重要である。しかし、南半球におけるダスト発生量の推定値には多大な不確実性がある。 本研究では、全球大気化学輸送モデルにおいて、ダスト発生量の季節変化の再現性を向上させるために、ダストの発生スキームを高度化した。その結果、南大洋域では、南米のパタゴニア地域のように、まばらに低木に覆われた地域から巻き上げられたダストが植物プランクトンにとって利用されやすい性質となる鉄の供給源として重要であることを示唆した。そのような地域は気候変動や土地利用変化の影響を受けやすい。そのため、将来、水溶性鉄供給量が変化し、それにより海洋生態系および気候へ影響を及ぼすことが懸念される。この研究成果は、国際的に先端的な研究が掲載される学術誌で主著の論文として掲載された。 これまでの研究成果が認められ、海洋環境保護の科学的側面に関する専門家会合(GESAMP)の正式なメンバーとして採用された。招待されたGESAMPのワークショップで口頭発表を行った。国際プロジェクトと連携し、他の数値モデルや観測の専門家と共同研究を行うことになった。さらに、主著者として、主要な論文を担うことが決定した。 バーミンガム大学に招待されたスクールセミナーでは本研究成果を含めた講演を行った。国際学会で(Goldschmidt、AGU)座長とコンビーナーを国内学会で(気象学会)座長を担い、学会活動へ貢献した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
従来のダスト発生スキームと比較して、土壌水分量に対する感度が高い手法を全球エアロゾル化学輸送モデルに適用した。次に、そのエアロゾル化学輸送モデルを用いて、エアロゾルの光学的厚さを算出した。そのモデル出力値と主要なダストの発生源付近で観測されたエアロゾルの光学的厚さとの間の誤差が最小になるように、ダスト発生量を最適化させた。しかし、数値モデルによる計算結果と観測結果との整合性はあまり良くなかった。そこで、海外研究協力者と協力し、ダスト発生スキームを改良した。具体的には、土壌水分量、地表面土壌粒径分布、植生被覆率などに関するダスト発生スキームを改善した。そして、それに伴い導入されたパラメーターに関して感度実験を行った。結果として、南大洋域へ供給される水溶性鉄の潜在的な発生源を示唆できた。その研究成果は、Journal of Geophysical Research Atmosphereに掲載された。 室内実験を専門とする研究協力者と協力し、様々な条件に設定した水溶液中で鉄を溶出させた実験結果を解析した。3月1日にバーミンガム大学を訪問し、研究打ち合わせを行った。当初予期していなかった実験結果が得られたため、現在、その原因を調査中である。 屋外観測によって、オーストラリア北部で得られた観測データとの整合性を評価した。その際、サヴァンナや森林火災などの燃焼起源エアロゾルの発生過程を検討した。観測値との誤差要因として、発生量の多大な不確実性が考えられた。そこで、植生燃焼過程を改良するため、衛星データと陸域生態系モデルなどを用いた研究を行った。
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今後の研究の推進方策 |
海洋環境保護の科学的側面に関する専門家会合(GESAMP)のWorking Group 38 では「The Atmospheric Input of Chemicals to the Ocean」に関する研究活動を推進している。現在、「Changing Atmospheric Acidity and the Oceanic Solubility of Nutrients」に関する新たな研究プロジェクトが進行中である。その研究活動は本研究課題と密接に関連している。そのため、GESAMPの正式なメンバーとして採用されることを承諾した。そこで、GESAMPの研究プロジェクトと連携し、以下の研究課題に取り組む。自然環境に近いエアロゾル中の鉄溶出過程に関して、屋外観測、室内実験および数値モデルに関する先行研究を調査し、総説にまとめる。数値モデルの相互比較を行い、現状の数値モデル間の相違点について解析する。数値モデルと観測結果を比較し、数値モデルの改善点を検討する。鉄溶出過程にとって重要な大気中の酸性度について検討する。 当初予期していなかった実験結果が得られた原因を調査する。そして、どのような室内実験が必要かを研究協力者と継続して議論する。 植生燃焼過程の改良に関しては、衛星データと陸域生態系モデルなどを用いた研究を継続する。 本課題で高度化したダスト発生スキームは、黄砂発生量の季節変化の再現性を向上させると期待される。また、中国の風下にあたる海域では、栄養塩として窒素が重要になると考えられる。そこで、全球エアロゾル化学輸送モデルを用いて、アジア域から海洋生態系へ供給される窒素量を推定する。このような取り組みから、人為起源の栄養塩供給量が海洋生態系へ与える影響評価の研究に貢献する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、今年度に購入を予定していた設備品を購入しなくても研究遂行に問題がなかったため、設備品の購入を行わなかった。また、海外研究協力者が英語を母国語とするため、英文校閲を取りやめた。
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次年度使用額の使用計画 |
海洋環境保護の科学的側面に関する専門家会合(GESAMP)の正式なメンバーとして採用された。そこで、海外研究協力者と議論を行うために、国際会議などへ出席し、旅費として使用する計画である。
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