研究課題/領域番号 |
16K00534
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
松井 洋平 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 次世代海洋資源調査技術研究開発プロジェクトチーム, 特任技術主任 (90756199)
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研究分担者 |
川口 慎介 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 深海・地殻内生物圏研究分野, 研究員 (50553088)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 酸処理 / 揮発成分 / 元素分析 |
研究実績の概要 |
元素分析計-同位体比質量分析計(EA-IRMS)は,環境中の有機物の動態解析に重要であり,確かなデータをえるためには,無機炭素を除去する酸処理が不可欠である。しかし,酸処理によって,本来分析対象としている有機物が揮発・分解してしまっていることが長らく指摘されている。本研究では,酸処理によって変質した有機物成分,及び発生する揮発成分を分析することで,どのような酸処理をどのような試料に施した際にどのような分析値への影響が見られるかを調べ,EA-IRMS法による環境解析において最適な酸処理法を提案する。平成29年度は,試料の酸処理用のガラスチャンバーを用いて種々の炭酸塩を含む堆積物試料の酸処理を行った。比較的容易に酸で除去しうる炭酸塩(方解石・アラレ石)を含んだ堆積物試料については,1N塩酸を用いて常温で処理することで炭酸塩が除去された。しかし,幾分難分解性の炭酸塩(苦灰石)や,さらに難分解性の炭酸塩(シデライト・マグネサイト等)を含む堆積物試料は,塩酸濃度や加熱温度をさらに詳細に調べる必要があるので,平成30年度に引き続き実験を行っていく。また,揮発成分分析だけ行う場合は,ガラス製のカップの上に堆積物試料を配置し,酸を滴下した後に発生するガスを分析するのが良いが,実際の分析法の提案のために,酸との反応に用いる金属カップの材質についても最適なものを探索する必要があることが分かった。一般的に用いられる錫製のカップは酸に弱く,酸処理によって脆く破損してしまうために,用いることができない。銀製のカップについては,易分解性の炭酸塩処理において,問題無く用いることを確認した。揮発成分分析のために小さい炭化水素ガスであるメタンガスを質量分析計で分析し,イオン源内でのフラングメント率を求めた。次年度は,メタンガスに加えて,他の揮発性成分である含炭素・含窒素揮発成分の分析も行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度に製作した酸処理用ガラスチャンバーを用いて,試料の酸(塩酸・リン酸・亜硫酸)による前処理を行った。また,ガラスチャンバー下部のホットプレート温度設定値を設定し,室温・40℃加熱・80℃加熱の条件にて標準試料と堆積物試料に対して酸処理を行った。元素分析計での測定のための試料前処理において,良く用いられる塩酸での反応においては,易分解性である方解石やアラレ石を含む堆積物試料においては,1N塩酸で十分に反応が進み,また加熱の必要がないことが明らかとなった。しかし,やや難分解性である苦灰石等を含む堆積物試料については,1N塩酸では反応が非常にゆっくりと進み,炭酸塩を除去するまでには数時間~24時間の反応時間が必要である場合,また1N塩酸では加熱しても除去しきれない場合があることが分かった。また,加熱温度は室温で反応をさせる場合よりも40℃加熱条件下で反応する方がより早く炭酸塩を除去できることがわかった。80℃加熱条件下においてはより早く炭酸塩を除去できるが,試料の入れる金属箔のカプセルにダメージを与え,酸とその反応物がカプセル外に流出してしまうこと,および試料中の有機物の加水分解による変質の可能性が示唆される。揮発成分の分析のための酸処理としては,ガラス製の容器を使うことで解決されるが,将来の分析にあたっては酸による金属への腐食の影響を減らすことが重要である。発生した揮発成分のために,QMSおよび,導入系・真空系を接続し,マススペクトルの計測を行った。揮発性有機炭素のマススペクトルを計測するために,系内にメタンガスを導入し計測を行った。その結果イオン源なでのフラグメンテーション化により,m/z=16に対するm/z=14とm/z=15の割合がそれぞれ,約22%と約78%となった。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は,酸処理チャンバーを用いてさらに実験を進め,やや難分解性の炭酸塩およびさらに難分解性の炭酸塩を含む堆積物試料においての知見も得る。これまで,やや難分解性である苦灰石を含む試料においては,酸の濃度を高めること,および反応温度を高める必要があることが分かった。また,平成29年度の実験において,苦灰石を含む試料よりもさらに難分解性の炭酸塩が含まれていることが予想される堆積物試料が見られたので,このように前処理が難しい試料についても最適な前処理方法を提案するために,まずは難分解性の炭酸塩成分と予想される菱鉄鉱や菱苦土鉱が,酸処理を行った堆積物試料にどの程度含まれているかを調べ,それらの難分解性の試料に必要な条件および酸処理後の残存成分・酸処理による揮発成分の分析を行う。また酸処理時に使用する金属カプセルの素材について異なるいくつかの種類について検討し,最適なものを選択できるようにする。酸処理を行わない場合の測定時に頻繁に使用される錫製のカプセルは酸に弱いため,カプセル内で酸処理を行うと数分間でカプセルに穴があき,脆くになってしまうため酸処理が必要な試料測定に用いることができない。これを解決するために異なる金属,例えば,銀・ニッケル・アルミニウム・ステンレス鋼などのカプセルを用いて実験を行い最適な素材を提案できるようにする。揮発成分分析では,メタンガスに加えて,発生しうるエタンガス・プロパンガス・アンモニア・アミン・窒素酸化物の測定を行い,揮発成分と酸処理の関係性について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は,機構の運営交付金で購入した消耗品の余りを使わせていただくことができたので,当初計上していた物品費との差額が生じた。また,実験計画と野外調査等のスケジュールの調整を最適化するために,当初予定していた,学会や打ち合わせの参加時期がずれたことにより,旅費・謝金・その他の費用に差額が生じた。差額分は,平成30年度の酸各種・試薬類・ガスボンベ等の購入費,サンプリング・地球化学会また地球惑星科学連合大会参加のための旅費,その他の費用として使用する計画である。
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