研究課題
野生ニホンザルの筋肉組織から樹立した初代培養細胞に遺伝子を導入し、iPS細胞の樹立を試みた。しかしながら、最終的に増殖し続ける細胞は得られなかったため、iPS化の前に無限増殖能を付与する不死化操作を行った。また、本研究の主目的である放射線被ばくによる遅延的影響を解析するためには無限増殖能を有することが必要であったことから、樹立した不死化細胞を用いて遅延的不安定性について解析を行った。対照地域と旧警戒区域の個体それぞれ2頭から樹立した細胞を不死化させ、合計4株の不死化細胞を得た。まず、細胞樹立時点のDNA損傷を53BP1フォーカスを指標に検討し、対照地域と旧警戒区域由来細胞で細胞樹立後初期のDNA二重鎖切断に有意な差がないことを確認した。遅延的不安定性の誘導は、53BP1のフォーカス形成およびグローバルメチル化状態を指標に検討した。4株の不死化細胞の培養を継続し、定期的に53BP1フォーカスを検出したところ、これまでに対照群と被ばく群間で53BP1フォーカス陽性細胞の増加は確認されなかった。また、2 Gyの放射線を照射し、放射線誘発遅延的影響の出現頻度を比較したが、放射線誘発の遅延影響についても両群間で有意な差が見られなかった。53BP1を検出した同じタイミングで各株からDNAを抽出し、グローバルなメチル化状態の変動からエピジェネティック変化に対する影響を検討したが、メチル化状態についても有意な差はなかった。細胞を樹立した個体の外部・内部合計被ばく線量は、それぞれ648 mGyと870 mGyと推定され、これまで被ばく線量評価をおこなった個体の中では被ばく線量が高いグループに属する個体であった。以上の結果より、放射性セシウムが多く蓄積する筋肉由来の細胞では、福島原発事故発生後から検討に用いた時点までの被ばくによる遅延的不安定性の誘導は極めて低いと考えられる。
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Sci Rep.
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Proceedings of the 19th Workshop on Environmental Radioactivity
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