研究課題/領域番号 |
16K00540
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
新村 信雄 茨城大学, フロンティア応用原子科学研究センター, 特命研究員 (50004453)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2020-03-31
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キーワード | 福島第一原発事故 / 放射性セシウム / イメージングプレート / 顆粒状 / 非水溶性 / 溶解度 / 炭化リター / 透析膜 |
研究実績の概要 |
2011年3月の福島第一原発事故により大気中に放出された放射性セシウム(以下Cs*と記す。)が非水溶性で土壌中や山林に存在するのは土壌粘土等の内部層状構造に吸着し(土壌捕捉説)、そこからの溶出がないからと思われてきた。我々は、汚染された土壌、タケノコやシイタケのイメージングプレート(IP)による観測及び汚染土壌の溶液化学的取り扱いからCs*は非水溶性の顆粒状で地上に降下し、土壌や植物の表面のミクロな凹凸に付着していると考えるのが妥当であると結論付けた。(N.Niimura, et al. J. Environ. Radioact., 139, 234-239, (2015))しかし、Cs*が非水溶性顆粒状なら、農産物への根からのCs*の移行は根の構造特性からあり得ない。 顆粒状Cs*の非水溶性から水溶性への移行プロセスが存在せねばならない。 顆粒状Cs*を付着しているリター(木の葉、竹の葉、その他ブッシュ枯れ葉類)を水中に浸しておくと、数ヶ月で数%程度であるが、Cs*が溶け出して来る。最近、顆粒状Cs*はアモルファス構造をとっていることが判明してきたが、アモルファス構造の表面に存在するCs*が空気中で酸化され、酸化Csは水溶性なのでCsイオンとなり溶解すると考えている。顆粒状Cs*を粉砕しその表面積を増すと溶解度が数倍上昇することからも、表面に存在するCs*が酸化されて溶解することを裏付けられた。尚、Cs*が微小な顆粒でなく、イオンとして溶出していることを透析膜を用いて確認している。 数ヶ月リターを水中に浸すとリターが腐ってきて実験に種々支障がでる。そこで、リターを電気炉中で1時間加熱(約300℃:Csの沸点671℃)、炭化させることで解決した。なお、この操作で顆粒状Cs*構造の変化がないことはラジオグラフィ測定で確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該研究の最大の課題は、福島第一原発事故により大気中に放出された放射性セシウムが非水溶性であることの理由が非水溶性顆粒状物質であったことが判明し、一応この問題に決着は着いた。しかし、ここに新たな課題が生じていた。それは僅かではあるが、農産物等の植物に放射性Csが取り込まれている現実であった。つまり、非水溶性顆粒状物質が水溶性になることを実証する必要がある。 しかし、これを実験的に確認するには、Cs*がイオンとして溶解すること、つまり微粒子の顆粒(数ミクロン)とイオン性Cs(水和構造を考慮しても、数ナノメーター以下の大きさ)を分離しなければならない。通常のフィルターではこの分離は不可能で、透析膜を使うことでこれを解決した。 また、非水溶性顆粒状Cs*の溶解度は数%以下であるため、実験には数ヶ月、生のリターを水中に浸すことが必須で、そうすると試料が腐敗するため、臭いその他で実験は不可能であったが、炭化リターを作成することでこの難題を解決した。 実験に伴う技術的問題を解決し、非水溶性顆粒状Cs*の溶解度を測定するのが当該研究の目標であったので、結果は順調であった。 現在、これらの成果を論文にして学術誌に投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
2011年3月の福島第一原発事故(FDNPP事故)に関する研究成果は、それが喩えどんなにscientificに面白い内容を含むものであっても、福島県民、日本国民のための助けになるものでなければならない。つまり、FDNPP事故は起きてはならない事故であり、これに関する成果は、このaccidentで困っていることの解決に使われなかったら、極端な言い方かもしれないが、無意味(税金の無駄遣い)と考えている。 その意味で、我々の成果は今後次のように使われる必要がある。 i) 顆粒状放射性Cs*は非水溶性と考えられていたが、徐々にではあるが確実に水溶性になっている。現在、道路や田畑の表面下数10cmの汚染土は除去されているが、それもそのまま放置されているのが現状であるが、それらの梱包袋が経年変化で破損すれば、そこから確実に溶け出す。ii) 山野のリターはまだ除染されず、かなり手つかずである。それらからは確実にCs*が溶け出してきている。iii) 以上から、土壌やリターに付着している顆粒状放射性Cs*を取り出すことが必須である。そのための技術開発が今後の研究課題である。
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次年度使用額が生じた理由 |
放射性Csを含む顆粒状物質の水溶性の原因は表面が酸化することが判明してきたが、以下の項目の実験データ精度等と水溶性の機構解明モデルを再確認した上で論文を作成する必要があるため未使用額が生じた。これに伴い、研究期間を延長するとともに、2019年度の論文投稿等に充当する。 1)水溶性になるときの顆粒状物質の大きさ依存性の精度確認。 2)表面酸化の機構解明のモデル構築における試料の存在形態依存性の確認。 3)水溶性チェックに使用したフィルター穴径と水溶性の相関の検討。
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