研究課題/領域番号 |
16K00545
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
秋山 秋梅 (張秋梅) 京都大学, 理学研究科, 准教授 (00260604)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 酸化DAN修復 / 酸化ストレス / 線虫 / 培養細胞 / 放射線応答 / DNA修復酵素 |
研究実績の概要 |
細胞にとって最大の脅威である酸化は活性酸素(ROS)によって引き起こされる。電離放射線は細胞成分に直接損傷を与える作用と、大量にROSを産生することを介して細胞構成物質に酸化損傷を生成する作用がある。それに対して細胞内には、ROSの消去・酸化された分子の還元・損傷DNAの修復などの応答機構が備わっている。これらの機構が破綻すると、細胞死・突然変異・がん化・早期老化・発生異常や神経疾患などの様々な病態が引き起こされる。従ってROSに対する防御・損傷修復は生物の生死にとって極めて重要な要素である。 そこで本研究では、(1)酸化ストレス防御因子および酸化DNA損傷修復酵素の同定(2)線虫の酸化DNA損傷修復酵素の生理現象への寄与の解明(3)ヒト細胞ミトコンドリアにおける酸化ストレス防御因子・酸化DNA損傷修復因子の放射線防御機構における役割の解明、の3つの課題を掲げ、それぞれについて平成29年度は以下の成果を得た。 (1)酸化DNA損傷修復酵素として、ホヤからAPEX2とP0を同定し、それらの構造と機能の解析を行った。これらの遺伝子産物が共に3’-5’exonuclease 活性をもつことを証明した。その成果を国際誌に公表した。 (2)線虫ではDNA修復酵素EXO-3の成長や器官形成を含む生理現象への寄与を明らかにし、それを国際学会及び国内学会にて発表した。 (3)酸化ストレス防御因子OXR1が放射線に応答し、ゲノム安定性に関与することを見出した。その成果を国内学会で発表した。また、修復酵素OGG1のミトコンドリア高発現細胞を作成し、細胞質または細胞核へのtargeting照射後の影響を観察した。その成果を複数の国内学会にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は3つの課題の解明を進めている。(1)酸化ストレス防御因子および酸化DNA損傷修復酵素の同定(2)線虫の酸素DNA損傷修復酵素の生理現象への寄与の解明(3)ヒト細胞ミトコンドリアにおける酸化ストレス防御因子・酸化DNA損傷修復因子の放射線防御機構における役割の解明 (1)酸化ストレス防御因子の同定については、昨年度成果を挙げた大腸菌に続き、線虫・ホヤなど複数の生物種で行った。その中で、ホヤの塩基損傷修復酵素として2つの遺伝子の機能と構造の同定・解析を行った。昨年度線虫において酸化DNA損傷を認識する新規タンパク質の存在をgel-shift方法を用いて検出したものは、今年度そのタンパク質を部分的に精製した。この課題は順調に進展している。 (2)線虫のDNA修復酵素EXO-3欠損線虫を用い、EXO-3の新たな指標として成長や器官形成への役割を見出した。また、二重変異株を作製し、昨年度からの成果を順調に進展させた。 (3)ミトコンドリアの機能維持に関与があるOXR1発現抑制細胞株を用いて、更にOXR1のゲノム不安定性と細胞周期制御への関連を見出した。ミトコンドリア局在の酸化DNA損傷修復因子OGG1の過剰発現細胞株に放射線を照射し、細胞感受性や細胞質・細胞核における放射線影響への影響を調べた。この課題においてもほぼ予定通りに進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は引き続き、以下のような研究計画としている。 (1)線虫における新規酸化ストレス防御因子の同定、ホヤDNA修復因子APEX1の構造・機能解明を進めていく。発生への影響に焦点をあてた研究を行う。また、酵母のapn-1、apn-2の酸化ストレス応答機能解析を行う。 (2)線虫DNA修復因子EXO-3の生理機能での役割、線虫の塩基除去修復遺伝子の欠損が突然変異に及ぼす影響を調べる。また、分裂期・非分裂期の線虫を使用し、ATMの酸化ストレス防御機構への寄与の解明を行う。 (3)ミトコンドリアへの関与が示されている因子OXR1の機能について論文にまとめ、OXR1結合タンパク質の同定を行う。ミトコンドリア局在型酸化DNA損傷修復因子OGG1の低線量率放射線応答への解明を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた実験用機材・実験材料の購入において、京大放射線生物研究センター及び東北大学加齢医学研究センターの機器・試薬を共同利用したことにより費用の一部を削減できた為。 生じた次年度使用額については、研究テーマの展開による培地・血清・研究試薬の購入など実験系に使用すると共に、共同研究者間での打ち合わせや国内外の研究発表、得られた成果の論文掲載料に使用する計画としている。
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