細胞にとって最大の脅威である酸化は活性酸素(ROS)によって引き起こされる。電離放射線は細胞成分に直接損傷を与える作用と、大量にROSを産生することを介して細胞構成物質に酸化損傷を与える作用がある。それに対して細胞内には、ROSの消去・酸化された分子の還元・損傷DNAの修復などの防御機構が備わっている。これらの機構が破綻すると、細胞死・突然変異・がん化・早期老化・発生異常や神経疾患などの様々な病態が引き起こされる。従ってROSに対する防御・損傷修復は生物の生死にとって極めて重要な要素である。そこで本研究では、(1)酸化ストレス防御因子および酸化DNA損傷修復酵素の同定、(2)線虫の酸化的DNA損傷に対する修復酵素の生理現象への寄与の解明、(3)ヒト細胞ミトコンドリアにおける酸化ストレス防御因子・酸化DNA損傷修復因子の放射線防御機構における役割の解明、の3つの課題を掲げ、それぞれについて平成30年度までに多くの成果をあげた。 平成31(令和元)年度では、論文を仕上げるための課題について次のような成果を得た。 酸化ストレス防御因子OXR1が放射線に応答し、ゲノム安定性に関与することを見出した。さらに、より繊細な実験を行った。OXR1が細胞の活性酸素O2-の生成抑制に関わっていることと、OXR1欠損細胞では活性酸素の産生が増大し、過剰発現細胞ではROSの生成が著しく抑制することがその結論を強く支持している。これらの成果を英国で開催された国際放射線生物連合会議で発表した。また、本研究の成果の一部はJournal of Radiation Research(Oxford出版)に公表した。
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