当初の研究計画に沿い、「放射線被ばくで生じたRET/PTCは内部被ばくの場合、継続的な被ばくにより活性酸素種(以下ROS)産生・レドックス反応が持続し、RET/PTCがさらに持続的に活性化される」という仮説を証明するために行った実験において、CHO細胞へのRET/PTC1遺伝子導入は成功し、CHO/RET PTC1細胞を作製することができた。しかし紫外線照射またはX線照射によるCHO/RET PTC1細胞の異常活性化については様々な検討を行ったが確認されず、この実験系を終了した。 改めて、放射線照射がより持続的に、さらに多くのROSを産生する可能性がある動物を検討した結果、オートファジー不全マウス(甲状腺特異的ATG5ノックアウトマウス)を用いることとした。オートファジーを不全にすることで放射線照射により機能障害を起こしたミトコンドリアが細胞内で分解されず、高いROS産生を維持する。やがて持続的なROS産生がDNA損傷を起こし、結果としてゲノム不安定化に至ると考えた。 胎生期から甲状腺特異的にオートファジーが不全となった生後12ヶ月のAtg5TPO-KOマウス(以下KO)では、コントロールと比較して濾胞細胞内に変性タンパクの蓄積がみられた。さらに、分解されないまま残った不良ミトコンドリアからのROSによると考えられるDNAの酸化損傷(8-OHdG)および二重鎖切断も増加した。これらの結果から生体内でのROSの持続的な産生とDNA損傷との関連を証明できた。 現在、KOマウスに放射線外照射し、さらに高いROS産生が持続された状態での甲状腺機能および発がん頻度を観察する予定である。さらに放射線照射によりROSの発生源となるミトコンドリアの機能低下や染色体の異常がどの程度増加するか、初代培養を行い検討する。
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