研究課題/領域番号 |
16K00556
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研究機関 | 公益財団法人放射線影響研究所 |
研究代表者 |
濱崎 幹也 公益財団法人放射線影響研究所, 分子生物科学部, 研究員 (80443597)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 造血幹細胞 / 染色体異常 / 胎内被ばく |
研究実績の概要 |
原爆胎内被爆者の母親の末梢血リンパ球では被曝線量の増加に伴い安定型染色体異常である転座の頻度が増加するのに対し、原爆胎内被爆者では被曝の大小に関わらず転座がほとんど観察されなかった(検査時年齢平均40歳)。同様の現象は胎内被曝後に成体となったマウス、ラットの造血細胞においても確認された。また造血組織以外の組織での調査や胎生期で被曝時期を変えた実験の結果も含めて総合的に考えると、胎内被曝で生じる転座頻度と組織幹細胞ニッチ(幹細胞が機能する微小環境)の確立時期との間に密接な関係がある可能性が示唆された。そこで我々は胎生期において幹細胞ニッチが整う前に組織幹細胞が被曝した場合には放射線の影響は幹細胞に残らないが、ニッチ確立後の被曝だと放射線の影響が残るという仮説を考えた。本研究では幹細胞ニッチの確立が生後だとされるマウス造血組織において胎内被曝によって造血幹細胞に生じた転座がいつどのように消失するのかを調査することを目的とした。本年度は昨年度報告した造血前駆細胞も含む造血幹(前駆)細胞集団よりも高純度なマウス造血幹細胞をセルソーターを用いて1細胞/1ウェルの割合で96ウェルプレートに分取し、その後ウェル内で増殖した単一造血幹細胞由来コロニーの染色体の核型をマルチカラーFISH法で分析する系を確立した。この方法を用いて、妊娠13-15日目のB6C3F1 雌マウスにX線(2 Gy)を全身照射した1-2日後(出生前)における胎仔、母親の造血幹細胞に生じた転座頻度を調査している。また胎内被曝後、出生前から出生後にかけての転座頻度の経時的な変化を造血幹(前駆)細胞集団において予備的に調査した。その結果、出生前や生後5日では観察されていた転座が生後2週以降はほとんど観察されなくなった。このことから造血幹(前駆)細胞集団では胎内被曝によりいったん生成した転座が生後淘汰される可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
造血幹(前駆)細胞集団レベルでの胎内被曝後の転座頻度の経時的な変化については支障なく進んでいるが、より高純度な造血幹細胞集団での実験に少し時間がかかっている。ただ造血幹細胞の染色体核型解析の条件は確立できたので今後はデータを増やしていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き造血幹細胞、前駆細胞レベルにおいて、胎内被曝で生じた転座細胞の動態を調査する。また生後の造血幹細胞ニッチ確立時における細胞競合の考察(異常細胞の淘汰の有無)のための移植実験も開始していきたい。事前のX線照射により転座を有するドナーGFPマウスを準備してレシピエントマウスへの骨髄細胞移植実験を行う。移植後に脾臓で生じる造血コロニーの測定や移植細胞の骨髄への定着率や定着細胞中の転座頻度等を調べる実験を構築していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)購入予定の試薬の価格が残額よりも高額であり購入を差し控えたために次年度使用額が生じた。 (使用計画)引き続き、染色体異常測定用の染色体プローブ並びに造血幹細胞分取のための蛍光標識抗体、骨髄移植実験に必要な試薬、消耗品購入等に使用する予定である。
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