研究課題
本研究では「有機ヒ素化合物による小脳症状とグリア細胞:脳内ヒ素代謝とグルタチオン制御の破綻」と題して、茨城県の井戸水ヒ素汚染事故の主因物質であるジフェニルアルシン酸(DPAA)が引き起こす小脳症状の発症メカニズムの解明を目指している。初年度である平成28年度は、まずin vitro評価系としてDPAAによる培養ラット小脳アストロサイトの活性化とグルタチオンの関係を評価した。培養ラット小脳アストロサイトはDPAAにより過剰にグルタチオンを産生し、かつそれを細胞外に放出することを確認した。つづいて、96時間培養したのちの培養液中と培養細胞中のDPAAの濃度を測定したところ、DPAAは細胞中に蓄積し培養液よりも桁違いに高濃度でばく露していると予想された。つづいて、あらかじめ細胞外に多量のグルタチオンを添加しておくと、DPAAの影響はわずかではあるが減弱する事、グルタチオン合成を促すと考えられるN-アセチルシステインはDPAAの影響発現をほぼ完全に遮断し得ること、グルタチオン合成酵素阻害剤(BSO)により細胞内グルタチオンを枯渇させた場合も同様にDPAAの影響は減弱することがあきらかとなった。また、細胞内のグルタチオンを操作するために、グルタチオン合成酵素のひとつであるγ-グルタミルシステイン合成酵素(GCLC)をsiRNAによりノックダウンを行いその影響を評価している。さらに、ヒ素化合物中毒の解毒剤である、BALやDMSAなどのDPAAによるアストロサイトの異常活性化に対する効果を検証した。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度はまず系の立ち上げとして培養細胞を用いた研究を主軸として、研究計画通りの実験を展開することができ、細胞内外のグルタチオンがDPAAの影響発現に重要な役割を果たしている確証が得られた。
平成28年度の実績を踏まえ、平成29年度以降は培養アストロサイトにおけるDPAAの化学形態を是非明らかにしたい。また、生体ラットへのDPAAばく露とその影響の評価・解析に着手したい。
平成28年度の後半に動物(ラット)を用いたばく露実験を計画していたが、研究進捗の都合により優先すべき評価項目を変更し予定していた動物実験を次年度にまわすことにしたため、次年度使用額が生じた。
平成29年度に当該動物実験を行う予定であり、実験遂行具合に応じて然るべく動物・試薬等の消耗品費として使用する。
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