研究課題
本研究では「有機ヒ素化合物による小脳症状とグリア細胞:脳内ヒ素代謝とグルタチオン制御の破綻」と題して、茨城県の井戸水ヒ素汚染事故の主因物質であるジフェニルアルシン酸(DPAA)が引き起こす小脳症状の発症メカニズムの解明を目指している。これまでの研究からDPAAは小脳の神経細胞よりもアストロサイトに選択的に影響をおよぼし、種々の細胞生物学的異常活性化を生じさせることを明らかにしてきた。本課題については、昨年度は評価系の立ち上げを行い、ラット小脳由来初代培養を主軸として研究を行い、DPAAは細胞外へのグルタチオンの分泌(放出)を促し、その結果細胞内外のグルタチオンがDPAAの影響発現に重要な役割をはたしていることを明らかにした。二年目にあたる本年度は、この事実をさらに詳細に解析するために、DPAAによるアストロサイト活性化に対するシステイン(グルタチオンの材料)システイニルグリシン(グルタチオンの代謝物)、グルタチオン輸送体阻害剤、またはグルタチオン代謝酵素阻害剤の効果等を検証することでDPAAによる活性化とグルタチオン代謝の関係を検討した。また、生体ラットにおいて飲水投与によりDPAAばく露を行ったときの小脳アストロサイトに対する影響を分子生物学的に評価した。一方で、これまで当初の網羅的遺伝子発現解析や培養細胞における基礎的検討の結果を基にアストロサイトに注目・集中して研究を行ってきたが、他の細胞種での影響も評価し比較することで生物学的影響の普遍性を検討した。その結果、神経細胞よりもアストロサイトに影響が出やすいこと、次いで他の臓器由来の株化細胞でも異常活性化とグルタチオン動態の変化に対応関係がみられた。さらに、DPAAの影響の機序について化学的視点からDPAAと培養アストロサイトタンパク質との相互作用も検討した。
2: おおむね順調に進展している
ここまでDPAAによるアストロサイトの異常活性化について細胞生物学的機序の詳細を着々と明らかにすることができており、同時に並行している生体ラットにDPAAばく露した際の影響と比較することで生物学的蓋然性の確認も進んでおり、3年計画の2年目としておおむね順調に進行している。
これまでの実績を踏まえ最終年度である平成30年度は、DPAAによるアストロサイトの異常活性化におけるグルタチオンの役割の全体をあぶり出し、生体ラットでの影響についても解析し、当初立てた仮説の妥当性を検証し、まとめとしたい。
平成29年度では海外の業者からヒト由来の初代培養細胞の購入、培養を計画していており、予定通り注文をしたところ後日在庫がないとの連絡があり購入手続きを次年度に見送ったため次年度使用額が生じた。
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Toxicol Sci
巻: 156 ページ: 509-519
10.1093/toxsci/kfx012