近年、窒素降下物による汚染が自然環境に及ぼす影響が危惧されており、その実態の解明・評価が急務となっている。この窒素汚染を評価するにあたり、コケ植物が優れた指標になることが知られている。そこで、本研究では、コケに蓄積された窒素(窒素重量%、安定同位体比)を分析して窒素降下物の影響を広域で評価するとともに、過去のコケ標本を利用することで、近年の窒素汚染の動態の把握も試みる。さらに、コケに含まれる金属同位体も分析することで、越境由来の窒素化合物に対するコケの反応性についても検討を加える。 本年度は、調査に着手していなかった地域でサンプルを採取・分析するとともに、これまで取得したデータをまとめた。その結果、コケ植物の窒素重量%および、安定同位体比には、大気から降下する窒素化合物のみならず、土壌中に含まれる窒素成分も強く影響することが明らかになった。この理由としては、土壌に含まれる窒素量が調査地間で大きく異なっていたこと、が挙げられる。 同様の傾向はコケ植物に含まれるストロンチウム同位体比においても確認され、コケには土壌由来のストロンチウムが多く含まれることが示された。その一方、コケの鉛同位体比には越境大気汚染の影響が強く表れていた。これは、土壌に含まれる鉛化合物はコケに吸収されにくく、コケの鉛同位体比には大気降下物の影響が反映されやすかったためであると考えられる。 なお、過去から現在にいたる窒素汚染の変化については、コケの窒素重量%、安定同位体比のバラつきが大きく、結果の解釈にはさらなる分析が必要であると考えられた。 以上の結果に基づき、コケ植物を指標とした窒素汚染の評価について検討を加え、その効果的な利用法について考察した。
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