モンゴルでは民主化以降,ヤギの飼育頭数が年々増加し,過放牧による草原の砂漠化が危惧されている.過放牧による砂漠化プロセスを明らかにするためには,家畜による草原資源の利用実態を把握しなればならない.しかしながら家畜による草原資源の利用実態は不明な部分が多く,過放牧による砂漠化プロセスは明らかにされていない.この問題を解決するためには,家畜の行動を時系列的に直接観察する必要がある.そこで本研究はバイオロギングを用いて家畜の喫食行動を時系列で記録し,ヒツジとヤギによる過放牧による資源利用を検証することを目的とした. 調査地はモンゴルの首都ウランバートルから西に約95 kmにあるフスタイ国立公園周辺である.家畜をワイヤーで繋いだ放牧範囲を調査プロットとし,各プロットにヒツジまたはヤギを1頭ずつ配置した.ウェアラブルカメラを家畜の下顎に取り付け,家畜がどの植物を選択しているのかを1秒単位で記録した. ヒツジとヤギが餌資源として選択した植物種について集計したところ,放牧開始後1時間で最もよく食べていた種はAllium bidentatum(ネギ科ネギ属)であった.しばらくするとArtemisia frigida(キク科ヨモギ属)を食べるようになったが,Stipa krylovii(イネ科ハネガヤ属)は優占種であるにもかかわらずほとんど食べていなかった. モンゴルでは過放牧になると優占種がS. kryloviiからA. frigidaになることが報告されている.この理由としてA. frigidaがS. kryloviiよりも家畜の嗜好性が低いので,過放牧になると残されたA. frigidaが優占するためと考えられていた.しかしながら,本研究では家畜がA. frigidaを利用しており,モンゴル草原における新たな過放牧による砂漠化プロセスの可能性が示唆された.
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