小学校児童を対象に,2017年1月から2月に,毎日ピークフローメーターを用いた呼吸機能測定と咳,痰のスコアリングによる呼吸器症状のモニタリングを実施した。また,同時期に1μm以下の大気中の粒子状物質を集塵器に分流装置を設置してフィルター上に捕集した。フィルターは24時間毎に交換し,日毎の1μm以下の大気中の粒子状物質の捕集を行った。捕集した日毎の1μm以下の大気中の粒子状物質で,ヒト気道上皮細胞(BEAS2B細胞)、ヒト単球(THP1細胞)を刺激培養し,培養上清中の炎症性サイトカイン(IL1β,IL-6,IL-8,IL-33,TSLP)の濃度をELISA法により測定し,その値を日毎の1μm以下の大気中粒子状物質による炎症性サイトカイン産生量とした。 PM2.5,二酸化硫黄,窒素酸化物,オゾン,一酸化炭素の各濃度と,更に,1μm以下の大気中粒子状物質による炎症性サイトカイン産生量と呼吸機能と呼吸器症状との関連について線型混合モデルにより解析を実施した。PM2.5の上昇により児童の呼吸機能は低下していた。一方,大気粉塵の炎症性サイトカイン産生量と呼吸機能,呼吸器症状に関連はなかった。PM2.5の児童の呼吸器系への影響は曝露量が重要である可能性が示唆された。 捕集した大気粉塵にオゾンを曝露させると炎症性サイトカイン産生量は増加し,越境大気汚染によりPM2.5の毒性が高まる可能性が示唆されたが,大気観測人工衛星データデータを活用し,越境大気汚染が流入していると推測される日とそうでない日を比較したが,両者で大気粉塵の炎症性サイトカイン産生量に差はなかった。
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