研究課題
土壌中の有機炭素は土壌微生物による分解過程を経てCO2として大気中に放出される。この現象は微生物呼吸と呼ばれ、人間活動に由来するCO2放出量の7-10倍に相当する。温暖化に伴う微生物呼吸量の増加は地球規模の炭素収支に多大な影響を及ぼすため、その予測は重要であるものの、僅かな土壌中に数億個体が存在する土壌微生物の動態を、従来の培養法を用いて把握することは極めて困難であった。本課題では、温暖化操作実験のもと、微生物呼吸が長期に渡って測定されている西日本の森林において、最新の遺伝解析手法である「次世代シーケンサーを活用した環境DNA解析法」を用いて土壌微生物動態を把握することで、温暖化に対して土壌微生物相がどのような応答を示し、結果として微生物呼吸がどう変動するのかといった、一連の微生物呼吸プロセスの解明を行った。西日本の代表的な植生であるアラカシが優占する混交広葉樹林内に設置された10基の大型マルチ自動開閉チャンバー式土壌呼吸測定システムを用いて微生物呼吸を連続測定するとともに、5基を対象に赤外線ヒーターを使用して温暖化環境を人工的に創出することで、温暖化が微生物呼吸に及ぼす影響を把握した結果、従来の報告とは異なり、①日本の森林生態系では、温暖化環境下においても微生物呼吸量の減少をもたらすと考えられる土壌微生物種の消失や土壌微生物量の減少が生じないこと、②一方で二次的な森林においては、土壌微生物種数や土壌微生物量に変化はないものの、温暖化に応じて多様な有機物の分解に関わる放線菌や硝酸菌の出現頻度が増加すること、③これらの傾向は年間を通して生じていることなどが明らかとなった。つまり、こうした日本の森林生態系における土壌微生物相の高い温度耐性と、温暖化に応じた特定の土壌微生物グループの出現頻度の増加が、温暖化効果の長期維持(土壌呼吸量の増加)の要因になっていることなどが示唆された。
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