研究課題/領域番号 |
16K00576
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研究機関 | 茨城工業高等専門学校 |
研究代表者 |
千葉 薫 茨城工業高等専門学校, 国際創造工学科, 准教授 (50415775)
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研究分担者 |
小池 正記 広島工業大学, 工学部, 教授 (00356958)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ストロンチウム / 迅速分析 / MALDI-TOF 質量分析 / ジピコリン酸 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、要素技術①フィルター濃縮による試料調製法の確立、について2種類のストロンチウム単離用前処理ユニットを用いた実験を行った。まず、当初使用を予定していたフィルター状のラドディスクを用いた濾過実験を試みたが、フィルターの強度が弱く、繰り返し使用には不向きであり、また、緊急時に熟練者でなくとも簡便に操作できる手法の開発、という本課題の特徴を考慮しても最適な方法ではないことがわかった。そこで、このラドディスクフィルターと同じクラウンエーテルを結合させた樹脂を充填したカラム用いて、試料の前処理実験を行った。環境から採取した実際の試料にどの程度ストロンチウムが含まれており、どの程度の量の試料の前処理を想定する必要があるかを見積もる必要があったため、貝を硝酸で加熱処理した溶液を用いた前処理実験を行った。他の試料に比べてストロンチウム含量が多いと思われる貝の熱分解液20 mlを用い、シリンジでカラムに手動注入を試みたが、予想より流速が遅く手動操作では手間と時間がかかることがわかった。この点について、現在、溶液条件の調整など安全かつ迅速な前処理を行うための実験条件の検討を行っている。試料溶液中のストロンチウムを吸着させた上記のカラムから、EDTAを用いて溶出した溶液中にどの程度のストロンチウムが含まれているかによって本測定手法の分析のスケールが変わるため、比較データとして、無機イオンの微量分析に用いられているICP 質量分析装置を用いて、本実験の溶出液の分析を行った。実験には、東京大学アイソトープ総合センターの桧垣先生にご協力を頂いた。一方、要素技術②のMALDI-TOF-MSによる分析については、長岡技術科学大学の装置を使用させて頂けることになったため、Srイオンを含む標準試料を用いたテスト実験を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
要素技術①については、平成29年に予定していた「実サンプルの利用を見越したテスト実験」を行うにあたり、実サンプルでどのような問題が起こりうるかを念頭に置いて前処理方法を最適化する必要があると考えたため、予定を変更して実サンプルを用いた前処理実験を前倒しで開始した。現在、これらの実験を通して、実サンプルを用いた分析に本要素技術を適用する場合の問題点の洗い出しと、各々の問題点を克服するための実験条件の検討を行っているところである。これまで主に汚染水の検査の前処理に用いられてきたラドディスクフィルターは、強度面から繰り返し使用しにくいということがわかったため、カラム型のAnaLigSrを中心に使用する方針に変更した。実サンプルを用いた実験から、AnaLigSrについても、水溶液を用いた実験と異なる難しさも見えてきた。申請書作成時に懸念していた「自動化の際に目詰まりをする可能性」に繋がる問題点でもあるので、試料の種類や濃度や溶媒などを変えた実験を行い、できる限り共通の方法で前処理を行えるよう、現在実験条件の検討を行っている。平成30年度に予定していた実サンプルでの測定を前倒しで行った関係で、当初平成29年度に予定していた最終段階で得られたストロンチウムイオンの濃縮については平成30年度に行うこととする。マイクロ波を使った灰化の有効性ついても併せて検討する。 要素技術②の、ジピコリン酸とストロンチウム、イットリウム、ジルコニウムイオンの相互作用解析について、NMRを用いて行ってきた実験は一通り終了し、ストロンチウムがMALDI-TOF-質量分析でされやすかった原因の目処が立った。MALDI-TOF質量分析実験についても、使用できる装置の目処が立ったので、液体クロマトグラフィーと併せてジピコリン酸以上に効率よくストロンチウムをイオン化することのできるマトリックスの探索を行う。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は最終年度であるので、年度内に要素技術②を中心とした成果発表と論文作成を行う。これまでに得られたNMRスペクトルのピーク位置、およびピークの形状の変化から、二価の電荷を持つストロンチウムとジピコリン酸の相互作用ではコンパクトな複合体が形成されるのに対し、三価のイットリウムや価のジルコニウムは、ジピコリン酸との複合体を作った後、大きな塊になってしまうことが示唆された。MALDI-TOF質量分析では、均一の分子量を持たない多量体はイオン化させにくいという装置の特徴を考えると、ストロンチウムがMALDI-TOF-質量分析でされやすかった理由が説明できる。放射性ストロンチウムは、その崩壊の過程でイットリウム、ジルコニウムへと変化するため、これらのイオンが混在した状態でもSrがMALDI TOF 質量分析で検出できるかどうかも確認しておく必要がある。 MALDI-TOF質量分析については日常的に使用できる装置ではないこと、NMRについては測定に時間がかかることから、これまで得られたデータをベースに液体クロマトグラフィーを用いた網羅的な相互作用実験を行い、ジピコリン酸によるストロンチウムの選択的イオン化の原理の解明とよりよいマトリックス分子の探索を行う。NMRを用いた実験では、ジピコリン酸のプロトンのピークの位置や形状の変化で、ストロンチウムイオンとの相互作用をモニターしていた。液体クロマトグラフィーでもジピコリン酸の吸光度を用いて相互作用をモニターしようとしているが、Srイオンを直接観測するための伝導度計の導入も検討している。要素技術②を実用化するためには欠かせない要素技術①についてはAnaLigSrカラムを用いた最適な実験条件が設定され次第、震災後、福島の海岸で採取した貝と野生のイノシシの肉を用いたストロンチウム検出実験を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に購入を予定していたマイクロ波灰化装置について、平成28年度に少量の試料を処理できる中古の装置を貰い受けることができた。そこでこの予算を用いて、平成28年度に購入した高速液体クロマトグラフィー装置と、この他に分光光度計を購入する予定であった。しかし、分光光度計についても30年程度使用された旧装置の代替として、物質工学科の共用装置が平成29年度に隣の実験室に設置されたため購入の必要がなくなった。一方、平成28年度に購入した高速液体クロマトグラフィー装置を用い、分析実験を行ったところ、当初予定していた吸光度での検出の他に、電気伝導度を用いた無機イオンのダイレクトな検出と分析カラムの温度コントロールが必要であることがわかったため、より必要性の高い電気伝導度検出器(1,000千円程度)の購入を予定している。また、試料の前処理のカラム操作を重力のみで行ったところ、流速が非常に遅かったため、申請時に想定したフィルター濾過と同程度の時間での前処理を可能にするため、耐酸性のポンプ(30千円程度)と、このポンプによる吸引を行うための機器(3M社のマニホールド類似品(250千円程度))を購入する予定である。また、MALDI-TOF質量分析に関して、当初予定していたつくばではなく、長岡技術科学大学での実験を行うことになったため、このうちの200千円程度はこのための旅費にあてたいと考えている。
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