令和元年度は核磁気共鳴(NMR)と前年度に導入した吸光光度計付き液体クロマトグラフィー(HPLC)装置に、今年度導入した電気伝導度検出器を接続し、2種類のプローブを用いてジピコリン酸とイオンの複合体の分析を行った。核磁気共鳴(NMR)データについても条件を変えて測定を行い、両者のデータの対応について検討を行った。ジピコリン酸に2価のストロンチウムイオンを加えた場合のNMRスペクトルは再現性がよく、両者が1:1で結合していることが示唆された。これに対してイットリウムを加えた場合は、試料調製後すぐに測定を行っても、特にイットリウムイオン濃度が低い条件でピークの線幅が大きく増大した。三価のイットリウムイオンを介してジピコリン酸が多量体を形成したと考えられる。ジルコニウムイオンを添加した場合は複雑なスペクトルを示し、少なくともジピコリン酸のメタ位とパラ位の水素の環境が異なる2種類以上の分子種が混在していることがわかった。 次に、ジピコリン酸とこれら3種のイオンの1:1の混合溶液を、イオンクロマト用のIC YS-50カラムを用いてHPLC分析し、吸光度と電気伝導度の観測を行った。吸光光度計はジピコリン酸の溶出時刻を、一方、伝導度計は金属イオン、あるいは電荷をもつ複合体の溶出時刻を観測していると考えられる。酢酸バッファー中のジピコリン酸にSr2+を添加した場合と、Y 3+を添加した場合でのHPLC分析結果を比較したところ、イットリウムでは、Y 3+を介したジピコリン酸のダイマーと思われるピークが増大しており、この結果は、少量のイオンをジピコリン酸に添加した際のNMRスペクトルでみられた傾向とも一致した。Zr 4+を添加した場合の変化はさらに顕著で、ジピコリン酸は0.25当量のZr 4+を添加することで、大きな複合体を形成し、前処理の遠心分離で溶出液中からほぼ排除されることが示唆された。
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