研究課題/領域番号 |
16K00600
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
木野内 忠稔 京都大学, 原子炉実験所, 講師 (90301457)
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研究分担者 |
小林 優 京都大学, 農学研究科, 准教授 (60281101)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 除染 / ファイトレメディエーション / 放射性セシウム / 土壌汚染 / 土壌滅菌 |
研究実績の概要 |
福島第一原発事故に由来する放射性セシウム(Cs)による農地土壌の除染対策は、決め手を欠いたまま模索が続いている。表土のはぎ取りは、空間線量を下げるのには有効であったが、はぎ取った表土は一時的に保管されたままであり、仮にそれらを除染プラントに移して工学的手法で除染できたとしても莫大なコストがかかる上に、除染後の土壌にイオン交換能などの農業用土としてのポテンシャルは失われているだろう。したがって、植物を用いた除染、即ちファイトレメディエーションは、農地特有の生産能力を可能な限りそのままの状態で残せることから、除染後のすみやかな農業再開を目指す上で、他に代えがたい打開策として非常に期待されていた。しかしながら、水耕栽培では培養液中のCsを20%程度吸収するヒマワリでさえ、実際にCs汚染した土壌で栽培すると、その吸収率は0.04%程度で、実用性が見出せなかった。我々は、ガンマ線照射滅菌(60 kGy)やオートクレーブ滅菌(121℃、20分)と言った土壌滅菌処理によって放射性Csが著しく植物に吸収されやすくなることを発見し、ファイトレメディエーション:PRMを行った。その結果、滅菌処理をした土壌をポットに入れてハツカダイコンを栽培すると、そのCs吸収率が最大1%まで上昇した。そこで、滅菌処理によるPRM効果の上昇に影響を与えた仕組みとは何か、即ち、土壌微生物の死滅によるのか、それともCsを結合した土壌物質が破壊・変性されたことによってCsが遊離した影響なのかなど、その要因を生物学的影響と物理化学的影響に分けて検討し、その特徴を調べることにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
土壌滅菌処理によって得られる高いPRM効果の仕組みを明らかにするため、まずは土壌滅菌が及ぼす生物学的影響について調べることにした。仮に植物によるCs吸収の効率に土壌微生物の存在が大きく影響しているのなら、滅菌処理後の土壌に土壌微生物を戻してやれば、滅菌前の土壌によるPRMの試験結果と同様の低いCs移行率になるはずである。そこで、滅菌前の土壌からできるだけ多くの土壌微生物を分離し、これを滅菌後の土壌に戻してから従来通りのポット栽培を行って、Csの移行率を求めることにした。順を追うと、滅菌前の土壌1グラムに対し滅菌水10mLの割合で懸濁し、37℃で20分間撹拌する。遠心分離により回収された沈殿を土壌微生物源とし、これを滅菌水にて再懸濁したものを滅菌後の土壌にもどしてからハツカダイコンを播種・栽培する。30日後にハツカダイコンによって吸収されたCs濃度を測定する。その結果、Cs濃度は土壌微生物の添加の有無にかかわらずほぼ一定であった。したがって、現時点では土壌微生物の添加によるCsの吸収抑制は観察されていない。
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今後の研究の推進方策 |
先述のように、滅菌した土壌から植物に移行したCs濃度は、土壌微生物の添加の有無にかかわらずほぼ一定であった。この結果は、最初に処理する滅菌法の違い(ガンマ線照射滅菌もしくはオートクレーブ滅菌)によらないことから、滅菌処理されたことによって生じたCsの移動性の高さは、仮にそこに細菌叢が復活したとしても不可逆的であることを示唆した。一方、土壌微生物の抽出過程で抽出されやすいものとされにくいものがあったことや、たとえ滅菌土壌にすべての土壌微生物を戻せていたとしても本来の土壌微生物による群集構造が再現できていなかったことも考えられたため、土壌滅菌処理によって得られる高いPRM効果にどの程度生物学的影響があったのかということを評価するのは困難であった。したがって今後は、Csが土壌中で結合している物質(有機物や土壌鉱物)に着目し、滅菌の前後におけるCsの吸着量の変化の測定など、それらの物理化学的性質を調べる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
遠心分離装置の規格が当初計画と変わり、その結果調達費が節約できたため。
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次年度使用額の使用計画 |
遠心分離関連機器の購入費とする。
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