研究実績の概要 |
本研究では、環境表層水中に含まれる薬剤耐性菌(AMR)について東京都内の河川を中心に調査を行なった。昨年度までの結果から、調査した都内河川・池の地点全てでAMRが検出され、予想以上にAMRが広く分布していることが明らかとなった。特に、スクリーニングに使用された薬剤6種の中では、アンピシリン・スルバクタム合剤(SAM20)、クラリスロマイシン(CLR15)への耐性が多く、検出率はそれぞれ64%、54%であった。分離菌の半数はこのSAM20とCLR15の2剤に対して同時に耐性を持っており、この2剤の臨床使用期間が25年以上と長期に及ぶことが関係していると考えられる。検出された耐性菌は、環境菌だけでなく、動物由来、植物由来に加え、臨床で感染報告のある菌など多様な菌が存在していた。 今年度は、培養できない表層水中の細菌の薬剤耐性の状況(Resistome)について調査した。河川および池の水試料をそれぞれ2地点採取し、次世代シークエンサー(illumina)で解析をした。得られたシークエンスはAmrPlusPlus(Galaxy-based metagenomics pipeline)で薬剤耐性遺伝子を検出した。その結果、2,289のAMR遺伝子が合計32,883のリード数検出された。耐性があった薬剤クラスは22に及ぶが、最も多い耐性遺伝子は、βラクタム(23%)で、以下代表的なものとして多剤耐性ポンプや制御に関するもの(15%)、フルオロキノロン(11%)、アミノグリコシド(8%)であった。水中の微生物生態系全体におけるAMR遺伝子は多種類で膨大に存在していることが示唆された。検出リード数は少なかったものの、現在臨床で問題となっているmcr-1(コリスチン耐性)やndm-1(New Delhi metallo-beta-lactamase)も検出されており、今後も注視が必要である。
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