研究課題/領域番号 |
16K00610
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
榎 牧子 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (90342758)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 天然凝集剤 / アルギン酸 / ペクチン |
研究実績の概要 |
1)タンニン前処理条件の検討:タンニンを含む植物原料としての柿皮の乾燥粉末に、金属塩除去のための希塩酸洗浄、組織内タンニン溶出促進のためのアルカリ浸漬を行い、これらを前処理として最適条件を検討した。アルカリ浸漬時のpHを8.5~11の間で検討したところ、pH10.5における処理にて最も凝集成績のよい産物が得られた。同時に、アルカリ処理時のpHが低すぎる場合には塩酸処理が必要であるものの、最適である場合には塩酸処理を行わなくても同等の凝集成績が得られ、塩酸処理は必要ないことがわかった。処理条件は残差としての植物凝集剤に残存するペクチン量に大きく影響し、ペクチン含量の多い凝集剤ほど、凝集成績が良好であった。 2)酵素処理の検討:本項では、西洋わさびペルオキシダーゼ(酵素)を用い、その基質である過酸化水素の柿皮凝集剤懸濁液への投入方法について、1回における投入量、投入回数、および酵素処理時間を変更させてタンニンの重合を試みた。投入回数を多くするほど、柿皮凝集剤の色は濃くなり、黒に近くなった。しかし、どの条件で作成した重合物においても、未処理の柿皮凝集剤より凝集性能が改善されるものはなく、処理条件が過剰であるほど、凝集効果は低下した。 3)凝集試験およびタンパク質吸着試験:タンパク質モデルとして水溶性ポリペプトンを用いたところ、カオリン濁水では凝集効果がある場合にも上澄みのCODを下げる機能は柿皮凝集剤では観察されなかった。そこでタンパク質モデルとして小麦粉を使用した。その結果、小麦粉1000 ppmを含む懸濁液を用いた場合、柿皮凝集剤は1.75 ppmの投入量で約50%のCOD除去率を示した。 4)一液型化の試み:前年度は予定していなかったが、上述のとおり、酵素処理による一液型化が進まなかったことから、別途、カルシウムイオンを予め凝集剤に分散させる手法を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記概要において1)タンニン前処理条件の検討と3)凝集試験およびタンパク質吸着試験は概ね、予定通りに遂行し、結果を得ることができた。1)では最適条件を決定することができ、そのメカニズムも把握できた。3)ではモデルたんぱく質を変更したものの、小麦粉で良好な結果を得ることができ、植物凝集剤がCOD除去にも有効であることを確認できた。 一方、2)酵素処理の検討では、種々の条件を試したもののポジティブな結果が得られず、酵素処理自体を断念せざるを得なかった。しかし、4)において、炭酸ナトリウム、塩化カルシウム、および塩酸を用いる手法によって、植物凝集剤の作用成分であるペクチンとカルシウムイオンの複合化に成功し、一液で凝集性能を発揮する懸濁状の液体を調製することに成功した。すなわち、本研究の課題である一液型へ向けて前進した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、植物凝集剤の一液型化にとりくむ。ペクチンは、懸濁汚水に予めカルシウムイオンを投入しておくと、ペクチン添加後に凝集性能を発揮する。すなわち、二液型の凝集剤である。これを一液型とするために、まず、凝集作用成分であるペクチンの標品を凝集剤本体として用い、これにカルシウムイオンを分散させる。 通常、ペクチンはカルシウムイオンを含む液体と混合すると速やかにゲル化し、凝集性能を発揮しなくなる。これは、ペクチン中のGブロック(グルロン酸が連なった部分)がカルシウムイオンとエッグボックス構造を形成し、強い架橋結合による強固なゲルとなるためである。そこで、本研究では、ペクチンを炭酸ナトリウムと混合した後に、塩化カルシウムを加えてペクチンと炭酸カルシウムの複合体とし、この複合体液に希塩酸を滴下することでペクチンとカルシウムからなるミクロゲルを形成する。このミクロゲルは水中に均一に分散するものを作成することを目標とする。ミクロゲルの調製条件を、カオリン濁水を対象とした凝集試験の結果を指標として最適化し、その後に植物凝集剤へ応用する。ここでは、植物凝集剤へ応用するための条件検討を再び行う。
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