ポリエチレンイミンを導入した親水性メタクリレート樹脂を用いて保持水量の影響について検討したところ,保持水量が小さい場合,迅速にパラジウムが抽出可能であるが,抽出量は小さくなることが明らかとなった。また,保持水のpHについて検討したところ,pH 1 - 6の範囲では顕著な差異は認められず,概ね一定であった。塩化ナトリウムを加えた水を保持させたところ,塩化ナトリウム濃度の増大とともにパラジウム抽出量が増大し,0.1 mol/L以上でほぼ一定となった。以上の結果より,水酸化ナトリウム水溶液でpH 5.5に調整した0.1 mol/L塩化ナトリウム水溶液を樹脂に保持し,パラジウム抽出するのが適していると判断した。樹脂上のポリエチレンイミンを修飾した樹脂についてもほぼ同様の結果が得られた。 有機合成時の触媒として用いられるいくつかのパラジウム錯体をキシレンに溶解し分離回収を試みたところ,含水樹脂の抽出量は水難溶の錯体の場合は乾燥樹脂と同等またはそれ以下であったが,水溶解性の高い錯体の場合は明らかに大きかった。 酢酸パラジウムを含むキシレン溶液に0.1 mol/L塩化ナトリウム水溶液を少量添加し,撹拌したところ,水溶液添加量の増加とともに水溶液へのパラジウム抽出量は増大した。この関係をもとに,樹脂に保持されている水量へのパラジウム抽出量を計算したところ,キシレン溶液からの含水樹脂へのパラジウム吸着量とパラジウム水溶液からの吸着量(すなわち樹脂に捕捉されている量)との差とほぼ一致したことから,含水樹脂に抽出されたパラジウムは,樹脂上の元素捕捉基に捕捉されているものと保持水層に抽出されているものとがあると考えられる。これらのことから,保持水には液-液抽出の場(クロロ錯体形成の場),親水性基による元素捕捉の場としての役割があると推察された。
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