研究課題/領域番号 |
16K00612
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
大渡 啓介 佐賀大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70243996)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | レアメタル分離 / 抽出機構 / 選択性 / 大環状化合物 / 分子設計 / 未脱水和水 |
研究実績の概要 |
さまざまな先端材料の原料に利用されるレアメタルは、資源の少ない日本での確保が困難であるが、都市鉱山に着目することで資源確保の問題は解決する。しかし、都市鉱山には多種元素が微量含まれるため、目的資源を満足する純度で回収することは容易ではなく、物理分別や乾式および湿式製錬のプロセスを駆使しても困難である。報告者らは、湿式製錬プロセスのうち溶媒抽出に着目し、新たな概念による金属分離を提案している。カリックスアレーンはフェノール性の大環状オリゴマーであり、適当な化学修飾を施すことで特定の金属イオンに選択性を有する抽出試薬となる。4つの単位構造からなるカリックス[4]アレーンはナトリウムイオンを鋳型金属として合成されるためにその誘導体の多くはアルカリ金属の中でナトリウムに選択性を示すが、トリプロピルーモノ酢酸誘導体はリチウム選択性を示すことがわかった。本研究では、この要因をリチウムに残った水和水とカリックス[4]アレーン誘導体のフェノキシ酸素原子との相互作用による影響であると考え研究を進めている。IRスペクトル、ラマンスペクトル、1H-および7Li-NMRスペクトルなどの分光学的手法に加え、カールフィッシャー滴定法による水分量測定を行い、抽出データとの相関を評価している。リチウムでは未脱水和水(リチウムに残った水和水)の水素原子とフェノキシ酸素原子との水素結合がリチウムの錯形成を安定する要因であると、いう結論に至っている。このように、金属イオンの未脱水和水を金属イオンの相互分離に適用することと、その概念を一般化することが本研究の目的である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
報告者はさまざまなp-t-カリックス[4]アレーン誘導体とリチウムやナトリウムイオンとの錯体の7Li-NMRスペクトルと23Na-NMRスペクトルを比較することによって、金属イオンの残された水分子の情報が得られ、より詳細な議論が可能であると考えていたが、装置設備の問題で現時点では両測定と比較が行えておらず、詳細な議論には至っていない。しかし、これまでの研究により、p-t-カリックス[4]アレーンテトラ酢酸誘導体とトリプロピル-モノ酢酸誘導体によるナトリウムとリチウムイオンの抽出とそれに伴う各種スペクトルデータとカールフィッシャー滴定法による水分量測定を行い、相関について検証を行っている。それらを総合すると、カリックス[4]アレーン誘導体の配位サイズに適合したナトリウムでは脱水和が十分に起こるため、配位元素をくまなく用い、一方、サイズ適合しないリチウムでは脱水和が不十分であり、未脱水和水を保持することが1H-NMRスペクトルによる環の歪みとIRスペクトルから示唆されている。このリチウムに残った水和水である未脱水和水分子の水素原子とカリックス[4]アレーン誘導体のフェノキシ酸素原子との相互作用がサイズ適合としては不利なリチウムの抽出を向上し、適合するナトリウムよりも高い選択性を示す結果となっている。このように、本研究は予定通りに進捗しており、予想している結果も得られ始めていることから、おおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
報告者はドイツのドレスデン工科大学科学部のJan Weigand教授らとの共同研究に基づく交換留学によりLi-NMRスペクトル測定などを行ってきたが、諸事情により十分な情報が得られていない。今後も共同研究は推進するが、他機関の装置の情報も収集し、さまざまなp-t-カリックス[4]アレーン誘導体とリチウムやナトリウムイオンとの錯体の7Li-NMRスペクトルと23Na-NMRスペクトルが測定できないか、検討を行う。また、トリプロピル-モノ酢酸誘導体以外にも、トリプロピル-モノヒドロキサム酸誘導体やトリプロピル-モノホスホン酸誘導体も合成を行い、同様にリチウムやナトリウムイオンの抽出、ならびに金属充填に伴う各種スペクトル分析を行い、相関を検証する。さらに、さまざまなカリックス[4]アレーン誘導体を用いてリチウムやナトリウムとの錯体の結晶を生成にチャレンジし、単結晶X線のデータを取得することにより結晶構造の直接的な解析も行いたい。研究成果に基づき、“未脱水和水と配位子との水素結合による金属認識”という新たな概念を確立すると同時に、この概念に基づいた分子設計の指針についての提案ができるように研究を推進する。このように弱い相互作用を利用した分離は今後の溶媒抽出の主流になると考えられる。報告者は企業との共同研究において、白金イオンと配位子の広義の水素結合を利用した抽出と分離を検討しており、概念の拡張は進展していると考えている。また、上述のドレスデン工科大学との共同研究は今後も積極的に推進し交流を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
大学の校費が激減したため、H28年度の残金が263,347円であったこと、また積極的に残金を0円にすることもないことを考えると、H29年度の使用は極めて順当である。最終年であり、H29年度の未使用額1万円とともに、成果獲得のために積極的に使用させていただく。
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