日本では、コーヒー飲料製造工場やカフェ、近年ではコンビニエンスストアなどから大量のコーヒー抽出残渣(コーヒー粕)が排出されている。コーヒー粕の一部は肥料化や燃料化が行われているが、製造コストに見合わず、大半は廃棄されているのが現状である。そこで、本研究では、酵母を用いて、コーヒー粕成分から高付加価物質を生産することを目的とした。今回は、具体的な高付加価物質として抗酸化作用を有するアスタキサンチンを生産させた。 コーヒー粕には、多糖類の他、抗菌作用を有するカフェインが含まれている。そこで、アスタキサンチンを生産することが知られている赤色酵母(Xanthophyllomyces dendrorhous)を用いてカフェインに対する細胞増殖と目的産物生産への影響試験を行った。具体的には、YM液体培地に各種濃度のカフェインを添加し、ヒダ付三角フラスコにて22℃、120 rpm、5日間振盪培養した。細胞濃度の測定は600 nmの吸収を、アスタキサンチンの定量は高速液体クロマトグラフィーを用いた。 培地中のカフェイン濃度が高いほどX.dendrorhousの増殖が遅延したが、細胞あたりのアスタキサンチン生産はむしろ向上した。これは、カフェインに対するX.dendrorhousの細胞の防御反応により、細胞内のアスタキサンチンの合成量が増加したためと考えられる。よって、コーヒー粕は、X.dendrorhousによるアスタキサンチン生産において有望な発酵資源となりうることを示した。
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