研究課題/領域番号 |
16K00618
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研究機関 | 新居浜工業高等専門学校 |
研究代表者 |
堤 主計 新居浜工業高等専門学校, 生物応用化学科, 准教授 (00300640)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | 忌避剤 / 徐放剤 / 環境適応型ポリマー / ポリ乳酸共重合体 / 超臨界二酸化炭素 |
研究実績の概要 |
カビや害虫・鳥獣類などの対策は農薬散布などの化学的防除や柵やネットなどの物理的防除が多用されているが、環境や労力において改善策が求められている。著者らは、これらに代わる方法として、生分解性ポリマーに天然由来の抗菌・忌避薬剤を超臨界二酸化炭素(scCO2)により含浸させた徐放剤を報告している。本研究では、scCO2を媒体としてポリ乳酸共重合体へ害虫に対して忌避効果の高いヒバ油を高濃度で含浸させるとともに、長期間安定して薬剤を放出させることのできる徐放性忌避剤の創製を目指す。 ポリ乳酸の熱的特性を改善した共重合体へのヒバ油の含浸とその放出の結果からヒバ油の共重合体中における分布状態を考察し、含浸と放出のバランスの優れた徐放性忌避剤を創製するとともにscCO2処理によるポリ乳酸共重合体の構造変化を各種物性により評価する。 平成28年度は、徐放性忌避剤を創製するために、基盤材となるポリ乳酸共重合体の合成について検討した。共重合体の合成において、方法や条件を決定するため、まずポリ乳酸の合成を検討した。ポリ乳酸単独重合体の合成の検討では、従来の方法とは異なる簡便な方法の検討とその方法における条件を検討した。確立した重合方法や条件をもとにL-ラクチド(L-LA)とδ-バレロラクトン(VL)またはトリメチレンカーボネート(TMC)とのランダム共重合体を合成し、ポリ乳酸を改質した。合成した共重合体の収率を求めた後、分子量・分子量分布、組成比、融点・融解熱・ガラス転移点をGPC、NMR、DSCにより決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、高分子量のポリ乳酸共重合体を合成するために、ポリ乳酸の合成において、高収率、高分子量で簡便に合成する方法を検討した。キシレンやトルエンを用いた場合では、収率は約80%と高収率であったが、分子量が予想よりも低く約5万あるいは約10万であった。エチルベンゼンでは、収率は90%以上で、分子量は約12万にまで向上させることができ、共重合体の合成では、エチルベンゼンを溶媒として用いることにした。 L-LAとVLとの共重合において、ポリ乳酸よりも収率は低くなったが、60%以上の収率で合成することができた。分子量はL-LA仕込量が多い重合では比較的高い値であったが、VL量の増加にともない低下する傾向となった。L-LA/VL仕込比が7/3の時に、分子量は約6.6万であり、ポリ乳酸よりも低い値となったが、忌避剤の基盤材として使用することができる程度の分子量であった。 L-LAとTMCとの共重合では、約70%以上で共重合体を合成することができ、分子量はL-LA/TMCが5/5の時に最も低くなったが、約9.3万と高い値であった。組成比も仕込比と同等の比率であった。しかし、TMC単独重合体は、非晶性ポリマーであることから、共重合体も結晶性が低くなりやすく、仕込比が7/3以下で融点の存在しない非晶性ポリマーであった。 これら合成した共重合体にscCO2を用いてヒバ油を含浸させ、NMRにより含浸量を評価した。熱的特性のやや低いL-LA/TMCの方が、同じ組成比でも含浸量が高くなりやすかった。 以上の結果から、L-LA/VL共重合体はもちろんのこと、L-LA/TMC共重合体は熱的特性がやや低いが高L-LA含量の共重合体であれば、基盤材として使用することができ、両共重合体ともヒバ油を10%以上の高濃度で含浸させることができ、平成28年度の成果はおおむね順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の計画は、共重合体へ含浸させたヒバ油の放出性をVOC分析計を購入し、評価する計画であったが、scCO2における共重合体の状態変化を測定するためにヘーズ計を購入し、scCO2処理後の共重合体の状態を評価することにした。また、ヒバ油の含浸実験を十分に行うことができなかったため、条件など詳細に検討する。本来実施する予定であった、放出性の評価については、平成30年度に計画を変更し、放出されるガスの分析は、外部に測定依頼し、対応する予定である。 従って、平成29年度は含浸実験において、より詳細な条件の検討を行うとともに、scCO2処理による共重合体のモルフォロジー変化が含浸に及ぼす影響を明らかにするため、処理後のフィルムのモルフォロジーに関する物性を評価する。モルフォロジーを評価するためにソルベントキャスト法で作製したフィルムの熱的特性、機械的特性、結晶性を、DSC、引張試験機、XRDやヘーズ計により評価する。熱的特性は融点、融解熱、ガラス転移点を、そして、機械的特性については応力、伸度、弾性率を決定する。scCO2で処理したフィルムについても同様に測定し、処理前後でのモルフォロジー変化を評価し、薬剤含浸への影響を考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に徐放性忌避剤を創製するための基盤材となるポリ乳酸共重合体を高分子量で合成することができた。しかし、これら共重合体の合成方法を確立するためにポリ乳酸単独重合体の合成において、従来の方法とは異なる簡便で効率的な合成方法を確立するための時間を要したために、共重合体の合成やそれらを用いたヒバ油の含浸実験にかかる時間や経費が少なくなった。このため、当初の予定額より変動が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度では、28年度に共重合体の物性やヒバ油含浸が十分にできなかったため、新たな共重合体の検討や含浸実験を行うため、28年度の繰越と合わせて薬品や器具などを購入する予定である。
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