研究代表者らは、従来のカビや害虫・鳥獣類などの対策に変わる方法として、生分解性ポリマーに天然由来の抗菌・忌避薬剤を超臨界二酸化炭素(scCO2)により含浸させた徐放剤を報告している。本研究では、scCO2を媒体としてポリ乳酸共重合体へ害虫に対して忌避効果の高い樹木精油を高濃度で含浸させるとともに、長期間安定してガス状の精油を放出させることのできる徐放性忌避剤の創製を目指す。 これまでのポリ乳酸共重合体は、精油を高濃度で含浸させるために80℃以上のscCO2で含浸を試みたが、共重合体フィルムの表面が融解するといった問題があった。そこで、熱的特性の優れたL-ラクチド(L-LA)とδ-バレロラクトン(VL)とのランダム共重合体(PLLArVL)を合成し、これら合成した共重合体にscCO2を用いて精油の含浸実験を行い、NMRにより含浸量を評価した。含浸実験では、これら共重合体は熱的特性がやや低いが高L-LA含量の共重合体であれば120℃の高温でもscCO2処理で融解することなく基盤材として使用することができ、精油を10%以上の高濃度で含浸させることができた。 精油を含浸させた共重合体の加水分解によりガス放出特性をVOC分析計で測定し評価した。含浸量が高いPLLArVL(71/29)は基盤材の分解が遅かったが、分解期間中で連続的に増加傾向となった。放出試験の結果からガス状精油の放出特性を評価することができた。 含浸実験に用いたPLLArVL共重合体がscCO2処理によりモルフォロジーに及ぼされる影響を調査するために、圧力14 MPa、処理温度を60~120℃の範囲でフィルム状のPLLArVLを処理し、熱的特性、ヘーズ(曇り度)、結晶化度、分子構造や状態を測定し評価した。結晶化度は処理温度の上昇にともない増加傾向となり、処理温度が低い場合には大きな変化はみられなかった。
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