研究課題/領域番号 |
16K00620
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
加茂 徹 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 上級主任研究員 (10186017)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 可溶化 / リサイクル / 架橋化EVA / 熱硬化性樹脂 |
研究実績の概要 |
ポリエチレンやポリプロピレン等の熱可塑性プラスチックは、1次元の線状構造を有するために加熱すると容易に軟化し、主鎖の開裂に伴ってラジカル分解反応が開始され容易に低分子化することができる。一方、エポキシ等の熱硬化性プラスチックは3次元の立体網目構造を有するため、例え加熱して1つの結合が開裂しても低分子化や可塑化は起こらないために耐熱性が高く堅牢で、電子基板や複合材料の基材として工業製品に広く利用されている。 太陽電池は再生可能エネルギーの旗手として世界的に広く普及しているが、20~30年後に大量の使用済み太陽電池は廃棄されると推算されている。太陽電池のシリコン半導体は、通常、耐候性や漏水性に優れた架橋化EVAで封止されており、これまで使用済み太陽電池から有用資源を回収するには、主に架橋化EVAを焼却して除去する手法等が検討されてきた。しかし太陽電池モジュールを焼却するとシリコンが汚染されるため、製造エネルギーの60~70%を占めるシリコンを清浄な状態で回収しリサイクルするには架橋化EVAを温和な条件下で除去することが必要とされてきた。 本研究では、初めに95~98%架橋化されたEVAをベンジルアルコールに入れ、硫酸、リン酸、リン酸三カリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム等の酸・アルカリを添加すると可溶され、特に水酸化カリウムを添加すると可溶化率が向上することを見出した。次に試料をベンジルアルコールだけでなく、クレゾール等の芳香系アルコール溶媒およびn-ヘキサノールやn-ヘプタノール等の直鎖アルコール溶媒に入れ、所定の水酸化カリウムを添加して可溶化すると、n-ペンタノール(C5)以上の直鎖アルコールや2-エチル-1-ヘキサノールを用いると架橋化EVAが可溶できることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
架橋化EVAを1-ヘキサノールに入れ、水酸化カリウムを添加した後に沸点で還流すると約60分程度で可溶化反応は完了し、それ以上加熱しても可溶化率は向上しなかった。架橋化EVAの可溶化率は、試料と水酸化カリウムの重量比(KOH/EVA)が増加するに従って直線的に増加し、重量比0.25以上で架橋化EVAは完全に可溶化され、水酸化カリウムは触媒ではなく反応物として可溶化に直接関与していることが明らかにされた。 次に40メッシュのステンレス製のカゴに入れた架橋化EVA試料を所定の温度に加熱した溶媒に挿入して反応を開始し、一定時間経過後にカゴを引き上げて反応を停止させ、各反応条件下における架橋化EVAの可溶化率を測定した。可溶化されたEVAに対して十分量の水酸化カルシウムが存在する場合(KOH/EVA(可溶化分)>>0.25)、可溶化率の対数値は可溶化時間に対して直線的に増加し、架橋化EVAの可溶化反応は擬一次反応として処理できることが分かった。また可溶化反応速度は、KOH/EVA(可溶化分)>>0.25の場合に共存する水酸化カリウム濃度にほぼ直線的に比例して大きくなることが見出された。 架橋化EVAを熱分解ガスクロマトグラフ(P-GC)で分析すると、脱酢酸で発生した酢酸とエチレンの熱分解で観測される特徴的な連続するオレフィン鎖が観測された。水酸化カリウムを添加したn-ヘキサノール中で可溶化した場合、まだ溶解していない架橋化EVAをP-GCで分析しても脱酢酸は観測されず、水酸化カリウムによるEVAの脱酢酸が速やかに進行することが観測された。また、可溶化されたEVAをP-GCで分析すると溶媒が観測され、可溶化反応における溶媒の取り込みが確認された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験結果から、架橋化EVAの可溶化反応は以下の式で表すことができ、添加した水酸化カリウムは触媒ではなく可溶化過程に直接関与する反応物であることが分かった。 k(架橋化EVAの可溶化速度)=α[架橋化EVA濃度][KOH濃度] 3次元の網目構造を有する熱硬化性樹脂の可溶化では、(1)溶媒が高分子網目構造へ浸入して膨潤する過程、(2)架橋結合が溶媒や添加物(水酸化カリウム等)によって開裂する分解過程、および(3)架橋結合が切れた鎖状高分子が溶媒中へ溶出・拡散する過程からなると考えられる。最終年度ではこれまで実験的に得られた速度論的知見に基づき、比較的簡単な動力学的シミュレーターを用いて(1)~(3)の各過程の詳細な反応機構を検討して可溶化反応の律速過程を明らかにすると共に、これまでほとんど知られていな3次元の網目構造を有する熱硬化性樹脂の可溶化機構を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
H29年度後半に実験機器や計算用シミュレーションソフトの購入を計画していたが、産総研の購買システムがダウンし購入することができなかった。
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