ビスフェノールA(BPA)に代表される内分泌攪乱物質 (環境ホルモン) による汚染は特に生殖細胞や組織に作用する内在性ホルモンの機能を阻害し、結果として個体に異常を引き起こすことが知られている。しかし、商品の包装や食器などの製品に多用されており、生体へのリスク評価が急務である。 本研究では、生殖組織ではなく、BPAが蓄積しやすく脂質含量が多い脳神経系に着目した研究を行った。研究では、モデル神経細胞PC12細胞やラット培養神経細胞に対しBPAを添加し、その後の細胞の形態的変化と細胞内の遺伝子発現の変化を解析した。その結果、PC12細胞に対し、BPAを添加すると、神経突起伸長作用が現れることが分かった。その際、細胞体が細長く形態変化することも分かった。また、ラット培養大脳皮質神経細胞に対するBPAの作用解析では、BPA無添加群と比較して有意な軸索の伸長の抑制が観察された。この時の細胞内では、ヒストンH3のリシン残基のアセチル化の上昇を伴い、ニューロンマーカーのNeuroD1の発現が上昇していることが明らかになった。 以上から、BPAの作用は、ヒストンH3の修飾を介したエピジェネティックな遺伝子発現の変化により発生初期段階における分化は進行させるが、脳神経細胞の軸索の伸長度が低下した結果、神経細胞の発達に重大な影響を与えることが示唆された。
|