山岳湖沼において環境の変化の結果起こり得る水草・大型藻類の多様性の変動を予測することを目的に,平成28年度には富士五湖(山中湖,河口湖,西湖,精進湖,本栖湖)の複数地点において湖の環境(透明度,表層水の濁度,電導度,pH,水深別のDO,水温,光量)を毎月測定する周年調査を,平成29-30年度には繁茂期における水草・大型藻類の現地調査と光合成の室内実験を,平成30年度には既往資料解析と研究の取りまとめを中心に行った。その結果,周年調査より,富士五湖全てで水質環境と光環境の季節変化を明らかにし,光環境が優れている順に本栖湖>西湖本湖=西湖根場>奥河口湖>山中湖≧河口湖本湖=河口湖船津>精進湖であることがわかった。また,既往資料解析より富士五湖の湖水環境と水生植物相の長期的・短期的な変化を詳らかにした。さらに,精進湖,西湖,河口湖の複数地点で実施した潜水調査より,水草・車軸藻類の水深別の種組成と生育頻度を詳らかにするとともに,各種の地点別の分布下限水深を特定し,底質や湧水などの微環境の違いが光環境に影響して分布下限水深が同一湖沼内でも異なる場合があることを明らかにした。温度と光量を変えて行った水草複数種の光合成測定実験からは絶滅危惧種のヒメイバラモとトリゲモ,富士五湖全てで広範囲に分布するクロモの温度別光曲線,光補償点,光飽和点,最大光合成速度,光合成最適温度,光補償点温度曲線,光合成温度曲線を詳らかにした。そして,高標高域に存在する山岳湖沼である富士五湖においても温暖化による水温の上昇は光補償点の上昇に繋がり,光環境の悪化とともに,水生植物の分布下限水深の浅化を招き,絶滅危惧種のような競争に弱い種は浅部では淘汰されるため,生物多様性に悪影響となることが判明した。
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