研究課題/領域番号 |
16K00638
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研究機関 | 大妻女子大学 |
研究代表者 |
小関 右介 大妻女子大学, 家政学部, 准教授 (00513772)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 環境配慮型農法 / 環境保全型農法 / 稲田養魚 / 水田養魚 / 生態系機能 / 生態系サービス / 安定同位体比 / 物質フロー |
研究実績の概要 |
本研究は、水田で米と魚を同時に生産する伝統的農法「稲田養魚」の自然共生型農法としての潜在性に焦点を当て、その環境親和性と高生産性を両立させる生態系プロセスを明らかにすることを目的としている。本年度は長野県佐久地域の水田地帯に調査水田を設定し、野外調査と炭素窒素安定同位体分析を実施した。その主な成果は以下のとおりである。 1)土壌、稲体および玄米の窒素同位体比 耕作者が同一で互いに隣接した慣行水田と養魚水田(フナ養殖水田)3組において、①土壌、②稲体(葉身)および③玄米を採取し、それらの炭素窒素安定同位体比(δ15N)を測定した。養魚水田では、養魚にともなう動物性有機物の増加を反映して、土壌の窒素同位体比が慣行水田と比して高いことが明らかとなった。また、慣行・養魚両水田において、稲体の窒素同位体比は土壌の窒素同位体比と正に関係しており、土壌の窒素条件の違いが吸収・同化を通じて稲体の窒素同位体比の違いをもたらすことが確かめられた。さらに、各水田の玄米の窒素同位体比が稲体とほぼ同様の値(傾き1の回帰)を示したことから、土壌窒素条件の違いは代謝過程を通じて玄米まで波及することも確認できた。 2)玄米収量構成要素 養魚水田は、慣行水田と比べて①一穂あたり籾数、②一穂あたり稔実籾数および③千粒籾重の各玄米収量構成要素の値が大きい傾向にあり、従来経験的に語られてきた養魚水田の高い生産性がデータで示された。 3)水田内の食物網構造 慣行水田と養魚水田において、湛水期(5月から8月)に月1回の頻度で①植物プランクトン、②動物プランクトン、③底生動物(ユスリカ、貧毛類等)および④大型水生生物(魚類、カエル幼生等)の採集を行い、安定同位体分析による食物網構造評価のための試料を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
水田内の食物網構造の評価について、当初計画では安定同位体分析まで実施する予定であった。しかし、想定よりも多くの試料生物が採取されたため、①分類、②体サイズ測定(体長と体重)および③分析前処理(乾燥、粉末化等)に時間を要し、実施に至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度実施予定であった食物網構造評価のための安定同位体分析について、次年度中に当該年度分と併せて実施し、進捗の遅れを取り戻す。具体的な方策として、①本年度確立した分類基準に照らして試料生物の分類を迅速に行う。②本年度のデータから作成した体長-体重換算式を用いて測定に要する時間を半分以下に短縮する。③本年度の経験を基に、試料の保存方法を個別容器保存からマルチウェルプレートを利用した多試料同時保存とすることで分析前処理の作業を大幅に効率化する。
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次年度使用額が生じた理由 |
安定同位体分析に供する試料が当初予定よりも多く採取されたことにともない、必要な物品の量が増えた。そのため、本年度途中で次年度使用予定額の前倒し支払請求を行って対応したが、その前倒し支払額の一部が残った。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は本年度と同じ内容の調査および分析の実施によりデータの充実を図る予定であり、そのために必要な経費として使用する。
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