研究課題/領域番号 |
16K00639
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
上野 薫 中部大学, 応用生物学部, 准教授 (30373070)
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研究分担者 |
南 基泰 中部大学, 応用生物学部, 教授 (90340207)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ニホンライチョウ / 雛 / 採食資源 / 直接観察 / 糞のDNA解析 / ハビタット / 太郎山 / 北ノ俣岳 |
研究実績の概要 |
現地では、北ノ俣岳における雛の行動追跡と採食観察、行動軌跡上の植生調査、前年度に作成した太郎山のGIS植生区分の現地確認と微修正、両山岳での航空画像の撮影を実施した。GIS解析では新たに数値標高モデルを作成し、これら全情報を用いて再解析し精度を高めた。その結果、雛にとって重要な環境は、太郎山の7~9月には風衝矮低木群落と湿性草原および雪田植物群落であり、風衝矮低木群落の利用頻度が38~70%と高かった。北ノ俣岳では9月にはライチョウの確認に至らなかったが、7月と8月はともに雪田植物群落の利用が55~84%と高かった。以上より、近隣でも地形や標高などの異なる高山帯では、雛の主要な餌資源が異なることが示された。共通点は、その時期に採食可能な落葉広葉低木の芽・葉・果実、湿性単子葉植物の花・果実、湿性双子葉植物の葉・花、イネ科の種子、常緑矮性低木の芽・葉・果実を、7月には特に柔らかな新葉や新芽を利用する点にあった。 糞のDNA解析による採食資源の把握では、ライチョウの動物性餌資源として可能性のある水生昆虫の太郎山における生息種の同定とDNA解析を行い、餌資源推定のためのDNAバーコーディング用ローカルデータベースに追加した。北ノ俣岳における糞採取を試みたが、急勾配で岩礁帯が多く採取が困難であったため断念し、立山における採取とした。解析ではサンプルを追加し、太郎山で2015年と2016年に採取した7月、8月、9月について比較した。その結果、採餌植物の出現クローン数の割合が高い優占種は、7月はクロウスゴを含むスノキ属で47%、8月はガンコウランで29%、9月はミネズオウで30%となっていた。これらの糞中より検出された各植物のクローン数の頻度は、直接観察におけるついばみ頻度と比べ必ずしも一致しなかったが、採食されていた植物は概ね一致していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
およその予定どおり、これまでの太郎山と北ノ俣岳での調査データに基づき、GISを用いたハビタットの山岳別の比較が可能になった。また、糞のDNA解析による餌資源についても、太郎山での7月から9月までの違いを示すことができ、現地での行動観察結果との比較も行える状態になった。北ノ俣岳での糞分析も予定していたが、2017年度のライチョウの利用環境が、急峻な岩礁帯が多く採取ができなかった。また、立山との比較までが当初目標となっているので、立山への展開は、最終年度での課題となる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに、北アルプス太郎山・太郎兵衛平・上ノ岳(北ノ俣岳)周辺において、ライチョウを対象とした直接観察および糞のDNA解析におけるライチョウの餌資源調査、航空画像撮影とライチョウ行動軌跡における植生調査によるGISを用いた育雛期のライチョウの餌資源ポテンシャルの把握を行ってきた。その結果、当該地域のライチョウの雛は7月の生後2週間程度のごく初期には、母親が採食する矮性常緑低木の葉は採食せず、柔らかい展開したての落葉広葉樹の葉に依存していること、上ノ岳では太郎兵衛平・太郎山よりも雪田植生を高頻度で利用していることが明らかとなってきた。これらの調査は、ライチョウの北アルプスにおけるシンク個体群のハビタットの一部を解明しようとするものである。 一方、立山室堂周辺の個体群は、北アルプスでの最大の個体群(ソース個体群)と推定される。本研究では、この個体群において太郎山等と同様の調査・比較により、日本でのライチョウ生息地の中心である北アルプスの安定的な個体群のハビタットと、補完的かつ小規模な個体群のハビタットの構造の特徴を明らかにする。 そのため、本年度は既存の調査情報を有効に活用しつつ、当該地域において過去にライチョウの生息報告があるエリアを中心に、太郎山と同等の調査を補完的に実施する。具体的な調査内容は、以下の通りである。 ①ライチョウの行動観察および採食物の把握・行動軌跡上における植生調査、②調査地における航空画像の撮影、③GISを用いた①と②および既存の行動情報や植生情報の統合・餌資源ポテンシャルの評価、④ライチョウ糞を採取し、DNA解析による植物性餌資源を把握、⑤DNA解析に必要な現地に生育する植物のDNA採取および解析。 現地調査では、天候等の状況によってはライチョウや糞の発見率が低くなる可能性があるが、諸団体からの協力を得て、できるだけ多くの情報収集に努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
既存の航空画像を多用する予定であったが、自ら撮影し解析に用いることができたため、若干の購入費用が残った。 最終年度であるH30年度では、調査地域が広く、これまでの補完撮影も計画しているため、航空画像の撮影回数の増加が想定される。H29年度の残額についてはここで有効に使用する予定である。
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