当初の予定どおり、2018年8月から9月、および2019年2月から3月にかけてリベリアとギニアにて野生チンパンジーの生態調査をおこなった。森に設置したビデオカメラトラップによって、昨年度からの動画データ(主に道具使用行動)を得た。技術や道具のバリエーションや可塑性、道具の運搬、季節性などを考えていくうえで重要な量的なデータを蓄積できた。また、2019年2月から3月における調査では、集中的に森林内の道具使用痕跡調査を実施した。野生チンパンジーの生態を明らかにするだけでなく、彼らが絶滅しないように、いかに保全に寄与できるか、というのが、本研究課題の大きな柱だ。保護区でない地域における調査であるにもかかわらず、地域住民との関係もうまく構築でき、野生動物を守っていくという意識が醸成されてきている。長期調査をおこなってきたギニアからリベリアへと国境をこえて調査を展開しているが、単に日本人研究者が研究するだけでなく、ギニアとリベリア両国の研究者交流を昨年度に引き続き、今年度も実施できた。森林内の生態学的調査に加え、リベリアの調査地において地域住民の生業や彼らの野生動物に対する考え方など社会学的調査についてもギニア人の共同研究者によって地域の言語マノンでインタビューすることができた。国境地帯かつ地域住民の活用する里山的環境という、野生動物の保全体制が確立できていなかった地域において、今年も新たな一歩を踏み出すことができた。本研究課題の成果の一部は、2018年8月にナイロビで開催された国際霊長類学会などで発表した。
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