本研究課題は、結晶含有率を制御するための独自の粉砕法で製造したセルロースの粉体を利用し、水分子を移送する機能を有するデバイス(水分子移送デバイス)を開発することを目的とするものである。以下に本研究の平成30年度の成果について述べる。 「水分子移送デバイスの基礎研究」ではデバイスの直径がデバイスの基本特性に与える影響を調べた。デバイスの直径が異なっても、断面積で規格化することで統一的に議論できることが分かった。測定結果については、浮力の影響を補正する必要があることが分かった。 「水分子移送デバイスの応用展開」においては、水分子移送デバイスの水耕栽培への応用展開を目指してきた。本年度も平成29年度に引き続きチンゲンサイの栽培可能性を検討した。セルロースの粉体はカビを繁殖させやすい。セルロース粉体が、吸水し乾燥する過程で凝集することは根が成長しにくい原因ともなりえる。セルロースに根腐れ防止剤になるバーライトを混ぜたものを培地にすること、また、セルロースの代わりに米粉を培地にすることなどを試みた。これらの検討の中では、セルロースに培養土を混ぜたものによって最も長い栽培日数を得られることが分かった。 「水分子移送機構の解明に向けた理論展開」においては、セルロースの(110)面と(1-10)面が水と接する界面における分子シミュレーションを実施した。(110)面よりも(1-10)面の方が、水との親和性が高いことを示唆する結果が得られた。 3年間の研究を通して、粉体の結晶性の影響など、セルロースの粉体を水分子移送デバイスとして使用する際に重要となる基礎的な項目を検討することができた。本課題の成果はセルロースの応用展開につながるものである。また、地球温暖化を始めとする様々な環境の問題に対応できる技術に発展する可能性を持つものである。
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