最終年度の課題である「MT酵素による糖化条件と酵素の生産方法」及びMT酵素と酵母FSC株による並行複発酵について検討した。T. reesei変異株(MT95株)が産生するMT酵素を使って、ろ紙の糖化に対する酵素/基質(E/S)比の影響を調べたところ、E/S=1/50で糖化率90%を達成し、E/S=1/50~1/200で比較対象の市販酵素C1.5L(Novozymes)より10~15%高い率を示した。MT95株は15世代にわたり安定したタンパク生成能を維持した。酵素タンパク解析により、MT酵素は糖化酵素(BGL、CBH、EG及びXYN)をC1.5L 酵素より多く含むことを確認した。 MT酵素の生産の炭素源として、微結晶セルロース、稲わらのブレンダー粉砕及びボールミル粉砕を調べたところ、ボールミル粉砕稲わらを利用できることを確認した。α-セルロースの糖化に対して、ミカエリス・メンテン式に基づく糖化速度の解析の結果、最大反応速度Vm(g/L・min)とミカエリス定数Km(g/L)を比較すると、MT酵素はC1.5L酵素よりVmが約23%高く、またKm値から基質に対する親和性が高いことが分かった。 本研究における前処理、酵素糖化、発酵の総合的評価のため、前処理した稲わら(BM)を使ってMT酵素と酵母FSC株による並行複発酵を行った結果、エタノールへの転換が0.39 L/kg-BM、菌体への転換分を除くと0.52 L/kg-BM、という高い率を得ることができた。この転換率は、既報告の各種バイオマス0.30~0.35 L/kg-BMに対して10~30%高い値であり、本研究の目標値0.4 L/kg-BMを概ね達成した。本実験では低い初期菌体量のため菌体への転換量が多かったが、連続又は半連続実験であれば0.39~0.52 L/kg-BMの範囲でより高いエタノール転換率を達成できると考える。
|