研究課題/領域番号 |
16K00661
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研究機関 | 関東学院大学 |
研究代表者 |
清水 由巳 関東学院大学, 理工学部, 准教授 (50725124)
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研究分担者 |
香西 博明 関東学院大学, 理工学部, 教授 (00272089)
清水 公徳 東京理科大学, 基礎工学部生物工学科, 准教授 (40345004)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ゴム分解菌 / 担子菌 / ラッカーゼ / リパーゼ |
研究実績の概要 |
廃ゴムの原型加工利用の促進と使用エネルギー低減を目指し、本研究では、難分解性物質分解微生物をスクリーニングし、その性状を解明するとともに、ゴム分解メカニズムを解明することを目的としている。本年度では次の2つを目標とした。 ① 担子菌類からのゴム分解菌のスクリーニング ② 様々なタイプのリパーゼを産生する真菌のスクリーニング ①について。真菌はゴムを分解し炭素源として利用すると予想し、ゴムを資化する菌株の獲得を行った。220株について試み、結果17株をゴム分解菌候補株として得た。17株は天然ゴムを資化したが、うち8株は合成ゴムも旺盛に資化した。獲得した17株を用い、天然ゴムラテックスの分解産物を1H NMR、13C NMRにより検出したところ、うち2株を作用させた場合、分解産物によるものと思われるピークを検出した。これらのことから、今回得られた菌株はゴム分解能を持つことを示唆しており、さらに合成ゴム分解酵素を産生する可能性も高い。他方、担子菌酵母Cryptococcus neoformansを用い、莢膜合成遺伝子CAP64破壊株ではリグニン分解酵素の一つラッカーゼの活性が野生株と比較し上昇することを明らかにした。このことからCAP64が細胞外分泌酵素の分泌に関与する可能性を示唆した。 ②について。利尻産酵母から、エステルについて分解可能なリパーゼ活性を有する菌株をスクリーニングした。試供菌株171株のうち5株について、オリーブオイル、菜種油、あるいはTrioleinを炭素源とし培養したところ、培地中に遊離脂肪酸が検出された。これら5株についてDNA塩基配列を用いた系統解析の結果、3株は既知の配列と一致したが2株は1つのクラスターを形成し、かつ既知のDNA配列とは一致しなかった。生理生化学的性状試験、その他分類学的解析結果においても、既知種の性状と違いがあり、これら2株は同種であり新種であった。これら2株が産生する脂質分解酵素は新規リパーゼであることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
① 合成ゴム分解菌の分離条件検討では、ラテックス、細かく切断したゴムを使用し、かつ、固形培地を用いた場合で良好な結果が得られ、合成ゴム、天然ゴムを資化する菌株を得た。これら候補株を用い、ゴム分解に関与する酵素がより多く産生される培養条件を検討中である。 ② ゴム分解産物の構造決定では、ゴムを炭素源としたときの菌の生育は旺盛であったが、1H NMR、13C NMRにより分解産物を検出したところ、期待したほどの顕著なシグナルは検出できなかった。分解産物量が少ないため検出できていない可能性があるため、ゴム分解酵素が多く産生されている培養条件を、培養中の細胞外分泌タンパク量を定量することにより検討している。 ③ リパーゼ活性を有する菌株のスクリーニングでは、rhodamine B培地を用いたリパーゼ活性菌検出方法を用いた。オリーブオイルを基質とした場合、39株の陽性株を得た。これら菌株のDNAの塩基配列を用いた相同性検索の結果から、多くの未記載種が含まれていることが判明した。また、他種のオイルについて資化性を調べたところ、菌種の違いにより基質特異性あることが予想された。 ④ リグニン分解酵素の合成、細胞外分泌メカニズムを解明するために、担子菌酵母Cryptococcus neoformansを用い、ラッカーゼ活性に関わる遺伝子について解析を行った。その結果、莢膜合成に関与する遺伝子CAP64の欠失株ではラッカーゼ活性が高くなることが分かった。莢膜は細胞壁の外側を覆う多糖類からなり、莢膜成分は小胞に包まれたまま細胞内、細胞外へ輸送分泌されると報告されている。CAP64遺伝子は細胞外分泌物質の輸送に関与しており、リグニン分解酵素も小胞による細胞外への輸送が行われていると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
① 得られたゴム分解菌株については、分解酵素の抽出、分解酵素の遺伝子同定を行う。当初、ペプチドシークエンスを用いたアミノ酸配列の決定から酵素の同定を行う予定であったが、ゴム分解にかかわる酵素が複数存在するため、mRNAseqによるトランスクリプトーム解析により網羅的にゴム分解にかかわる遺伝子の解析を行う。トランスクリプトーム解析に用いる菌株は、ゲノム情報が多くかつゴム資化があったヒラタケ、エノキ等を用いる。ゴム添加培地で著しく発現量が多い遺伝子群については、遺伝子欠損株を作製し遺伝子機能解析を行う。 ② 加硫ゴムの分解菌スクリーニングが未着手であるため、本年度は加硫ゴムを用いて分解菌のスクリーニングを試みる。すでに得られたゴム分解菌株については、DNA遺伝子配列を用いた相同性検索により簡易同定作業を行っているが、これら菌株を用い、加硫ゴムの資化性についても解析する。 ③ 分離菌株によるゴム分解産物の検出は、酵素活性が高くなる培養条件の検討と同時に、ゴム分解産物が直ちに菌類により消費されている可能性があるため、ゴム分解酵素粗抽出液を調整し、ゴムに反応させ、反応産物を用いて検出する。検出方法としてNMRの他、二次元展開TLC、赤外線吸収分光法、ゲル浸透クロマトグラフィーによる解析についても行う。 ④ 平成28年度のゴム分解菌の分離は関東と近畿地方で行い、また、秋季と限定された。他方、真菌類に対して分子系統学的な比較ゲノム解析の結果が報告されており、リグニン分解にかかわる酵素を有する菌種には、キクラゲ目、タバコウロコタケ目、コウヤタケ目、サルノコシカケ目、ベニタケ目が挙げられている。これらのことから、本研究での分離菌株の同定結果と合わせ、分離菌株以外の菌種でキクラゲ目、タバコウロコタケ目、コウヤタケ目、サルノコシカケ目、ベニタケ目に含まれる菌株を菌株保存機関から購入し、ゴム分解能について解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、ペプチドシークエンスを用いたアミノ酸配列の決定から酵素の同定を行う予定であったが、ゴム分解にかかわる酵素が複数存在するため、mRNAseqによるトランスクリプトーム解析により網羅的にゴム分解にかかわる遺伝子の解析を行うこととなったため、サンプル調整のための消耗品(試薬)の購入に用いる。
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次年度使用額の使用計画 |
total RNA 調整用試薬一式(物品費)の購入
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