研究課題/領域番号 |
16K00668
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
劉 庭秀 東北大学, 国際文化研究科, 教授 (70323087)
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研究分担者 |
茂木 創 拓殖大学, 政経学部, 准教授 (10407661)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 次世代自動車 / 中古車輸出 / 自動車リサイクル / 国際資源循環 / 越境環境問題 / 拡大生産者責任 |
研究実績の概要 |
日本における次世代自動車の保有台数は、すでに400万台を超えているが、その内94.5%はハイブリッドカー(HV)が占めている。一方、新車販売から15年以上経過しているHVが使用済み自動車として発生した場合、その大半は中古車として海外に輸出されている。 まず、初年度ではこれらの実態と課題を明らかにするために、主な自動車生産国における次世代自動車の開発動向、普及状況、HVの中古車輸出が環境汚染と資源循環に与える影響を分析した。特に日本、米国、中国、EU諸国における次世代自動車普及政策の大枠を把握した上、HVに焦点を当てて国内外における中古HVの流通実態とその課題(環境影響、資源循環など)を明らかにした。 日本は2009年からエコカー減税・補助金制度を導入し、HVの販売と普及が進んでおり、HVを2030年に4割まで増やそうとしている。一方、EUのドイツ、オランダなどは2030年まで内燃機関車の生産・販売の禁止を検討しており、EUにおいても電気自動車の急速な普及が予想される。そして、米国はバッテリーの性能向上、IT及び自動運転技術の発達を背景に、従来の半額以下の電気自動車を投入することを決めている。また、次世代自動車開発に遅れを取っていた中国も電気自動車普及に熱心である。これらの動向を考慮すれば、今後、世界的に電気自動車のシェアが急拡大することが容易に予想できる。 一方、日本から海外に輸出されている古いHVは、バッテリー、モーター類などの適正修理ができず、事故発生や整備時の安全問題が懸念される。例えば、モンゴル国は燃費の良いHVの需要が非常に高く、遊牧民が使用している太陽光パネルの蓄電池としての利用可能性も注目されている。しかしHVが使用済み自動車として発生した場合、廃棄物の適正処理と資源の有効利用が難しいため、越境環境問題の抑制と国際資源循環の可能性を探る必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は政府・行政機関および関連研究機関、静脈産業のヒアリング調査、関連文献及びデータ収集を行い、ハイブリッドカー(HV)を中心とした次世代自動車の流通および回収・廃棄・処理・再資源化状況について基礎的な研究調査を行った。 主な自動車製造国(日本、中国、米国、EU諸国)における次世代自動車の開発動向、中古車の流通状況、使用済み次世代自動車の処理状況などについては、最新の文献調査、先行研究のサーベイ、インタビュー調査を通して、基礎的なデータの収集・分析ができた。特に日本からモンゴル国へ流通しているHVの種類、年式などのデータを入手し、ウランバートル市内では交通量調査も実施した(約3-4割が古いHV)。さらに、モンゴル国の国土交通省、産業省などへのインタビュー調査を実施したが、古いHVの整備不良、バッテリーの不法投棄、使用済み自動車の適正処理について非常に高い関心を示した。 一方、日本及び中国の自動車メーカーへのインタビュー調査は容易ではなかった(外国人研究者は施設見学及びデータ提供不可の回答)。引き続き様々なチャンネルを用いてインタビュー及び現地調査を試みており、本年度は予定通り実施できると考えている。逆にEUに関しては、一定以上の成果をまとめることができた。自動車製造を行わず輸入に頼っているオランダの自動車リサイクル協会へのヒアリング調査、リサイクル施設(破砕残滓)の現地調査を実施し、イタリアのFCA(クライスラー・FIAT)グループのヒアリング調査・研究所の現地視察ができた。これらの成果は、書籍(分担執筆、6月イギリスで発刊予定)、学会発表(ポスター・口頭発表)の形で公表していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の研究調査実績をもとに調査対象等の軌道修正を図りつつ、より掘り下げた実態分析を行う。特に、具体的なヒアリング調査・実態調査先としては、日本及び中国の自動車メーカー、リサイクル関連協会及びリサイクル現場(日本・中国・韓国・モンゴル・ドイツ・ポーランドなど、今年の調査でロシアよりはEU諸国の調査が重要であると判断)を想定している。動脈産業と静脈産業を繋いだ次世代自動車のライフサイクル全体をネットワーキングし、マテリアルフローを正確に分析するためには、現段階で不足している事項とデータをより幅広く把握・調査する必要がある。中国における自動車産業の政策動向、自動車メーカーの考え方の把握、現地調査を実施するためには、中国南開大学社会経済発展研究院との共同研究を推進し、モンゴル国の現地調査はモンゴル科学技術大学との連携を深めていく計画である。 さらに昨年に入手したデータと、今年実施予定の解体実験データ(組成、解体容易性、マテリアルフロー)を利用し、ハイブリッドカーの流通・回収・廃棄・再資源化に関わるシナリオ分析・シミュレーション分析を行う。自動車メーカー各社では独自に、ハイブリッドカーに使用されている「使用済みニッケル水素電池」の再資源化スキームづくりへの取組が行われている。使用済みニッケル水素バッテリーからニッケルやレアアース化合物を抽出しバッテリー原料として再資源化する技術は確立しているものの、使用済みハイブリッドカーの回収スキームが機能しなければ関連技術が社会実装したとは言えない。中古車の海外輸出が盛んなことにより、現段階では使用済みの次世代自動車が日本国内で回収・再資源化できる量は少ないと予想されるが、現時点ではこれらの研究調査、分析を通してすでに確立している最新技術をどこに、どのように投入することが望ましいのかを探ることが非常に重要である。
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