本研究では、2015年末のパリCOP21に向けて各国が策定し、COPで最終決定された温室効果ガス排出削減目標およびそれを達成するためのエネルギー・ミックスの分析・評価を行った。そのために、まず第1に、各国政府がそれぞれ主張する「自国の温室効果ガス排出削減数値目標の公平性と野心度の正当化」を公平性や野心度に関する議論や定義との整合性という観点から分析した。第2に、各国が設定したエネルギー・ミックスの2030年までの変化割合の解析によって、各国が省エネ、再生エネ、原子力などの中で何を重視しているのかを明らかにした。第3に、各国が現在の数値目標およびより野心的な数値目標を達成する際の副次的便益の大きさなどを検討した。第4に、各国が既に実施、あるいは計画する各種発電エネルギーへの補助金を分析した。その結果、各国が主張する公平性と野心度は、各国にとって有利となる指標を使っていることが明らかになった。特に、多くの先進国は、温室効果ガスの歴史的排出という公平性の指標を使っていなかった。エネルギー・ミックスに関しては、原子力と石炭火力に関する政府の方針が大きく影響しており、日本に関しては、原発などに関して実現が極めて難しいエネルギー・ミックスが設定されていた。温室効果ガス排出削減における副次的便益に関しては、各国が独自で詳細な計算をしている場合はなかったものの、英医学誌のLancetなどが、主に大気汚染防止による便益を各国毎、産業毎に定量化しており参考になる。各政府の発電エネルギー技術に対する補助金に関しては、ドイツの場合、累積では、原発や化石燃料に対する補助金が他の発電エネルギー技術に比べて大きかった。また、日本では、2019年度の政府のエネルギー関連予算の約8割が原発と化石燃料を対象とするものであった。
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