研究課題/領域番号 |
16K00682
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
大西 修平 東海大学, 海洋学部, 教授 (00262337)
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研究分担者 |
山川 卓 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (10345184)
赤嶺 達郎 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 中央水産研究所, 主幹研究員 (90371822) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 遅延時間選択 / 時間のバイアス / 最大持続生産量MSY / プロスペクト理論 |
研究実績の概要 |
漁業者の意思決定における「時間」と「価値」のバイアス測定にむけて、実験用ソフトウェアを開発し、システムの改良を進めた。ソフトウェアの仕様の概要を説明する。汎用プログラミング言語;Pythonを用いて、Windowsシステム上で開発した。実験は室内外を問わず行えるように、ノートPC以下の画面サイズ(実際はタブレットPCが主体)に収まる設計とした。報酬と確率の情報を乱数生成し、数値を画面表示し刺激とする。刺激に対して、被験者は選択(意思決定)をタッチ入力する。刺激-被験者反応をセットで逐次記録する。刺激は「低収益・高確率」と「高収益・低確率」の二者択一である。宮城県気仙沼市を拠点として、遠洋漁業漁撈長経験者数名にシステム全体を監修して頂いた。監修によると、マグロ漁業はじめ回遊性浮魚を狙う漁業者は、基本的に「高収益・低確率」選好型である。したがって、選好の傾向について、ある程度予想が立ち、結果はパターンに沿って類型化が可能とのことであった。このことは、実験に事前情報を積極的に導入できる可能性を示唆する。実験時間を短縮できるので、被験者の実験のストレス軽減につながる(モデルタイプとして、いわゆるベイズ型モデルに当たる)。年単位の操業が主体の遠洋漁業と、月単位の操業が主体の近海漁業では、被験者(漁業従事者)の反応は全く異なるという助言もあった。システムは刺激にランダム性を前提とする仕様になっているが、実験期間が長い場合は「収益・確率」の前後の相関や周期性を考慮する必要がある。現時点のシステムでは、非ランダム性については考慮できていない。気仙沼市在住の被験者を獲得できておらず、当初計画であった気仙沼市でのフィールド実験は未着手である。代わる被験者として、山口県宇部市の漁業者に実験協力者が2名現れたため、急遽、システムを使って実験を行い、データを測定・記録することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実験システムは、刺激発生と反応の記録を行う単純な仕組みであるが、漁業の形態とターゲットになる水産資源の特性に合わせて、周期性や相関の有無など、意思決定の刺激に関する特性を設定しなければならない。現時点の実験方法は、対システム型の被験者1名で行うもので、データを獲得するための効率が良いとは言えない。多様な漁業形態にあわせた実験のデザイン構築がボトルネックとなり、計画全体が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
実験被験者は現在、漁業者2名に加え、漁業者に準ずる海洋活動に携わる者、加えて一般人と、少ない。まずは実験協力者の確保に努める。漁業の制度の変革となる「改正漁業法」が12月に成立した。改正漁業法はMSY:最大持続生産量等「資源持続的(長期)利用」を前面に掲げるため、漁業者の意思決定構造への影響についても考慮が必要である。特に資源の長期的利用へのシフトといった変化をとらえるための、意思決定モデル導出にも触れる。
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次年度使用額が生じた理由 |
資源の短期的利用を前提に実験を組み立ててきたが、MSY:最大持続生産量等の「資源持続的(長期)利用」についても、意思決定の動態の定量化が必要になることが見え始めた。新しい実験のために1年間の猶予を必要とし、これに伴って予算次年度使用額が生じた。新たな実験では、特に長期的資源最適化を意図する漁業者とコンタクトをとる必要があり、予算は漁業生産の拠点(各地漁港)への旅費として使用する。
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