研究課題/領域番号 |
16K00686
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
古澤 礼太 中部大学, 中部高等学術研究所, 准教授 (70454379)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 持続可能な開発のための教育 / ESD / 持続可能な開発目標 / SDGs / 伝統知 / 流域圏 |
研究実績の概要 |
本年度は、東海三県(愛知県・岐阜県・三重県)において、河川の流域圏単位で、持続可能な社会の構築に資する(環境保全、まちづくり、経済発展などに有効な)伝統的な知恵に関する調査を行い、資料を収集した。対象としたテーマは、ユネスコ無形文化遺産に登録された地域の山車祭りや、林業、衣類、食文化などであった。 また、国際的には、西アフリカ・ガーナ共和国首都アクラのガ民族の伝統首長制を対象として研究を行った。特に、ガの伝統首長権が執り行う祭礼ホモウォ祭りを調査し、当該祭礼が地域社会の紐帯維持に果たす役割を考察した。 伝統知を用いたESDの体系化に関する調査は、東海・中部地域のESDネットワークである、中部ESD拠点協議会が実施した「矢作川流域圏ESD伝統知プロジェクト」および「伊勢・三河湾流域圏ESD伝統知プロジェクト」(共催:NPO法人愛・地球プラットフォーム)の参加型調査を通して、伝統知を活かしたESDモデルの手法開発についての考察を行った。各プロジェクトにおいて、10回以上のワークショップを開催し、地域の活動主体と共に、伝統知のESDへの活用方法について検討を行った。 また、国連「持続可能な開発目標(SDGs)」におけるESDの主流化については、ユネスコのESDに関する「グローバル・アクション・プログラム(GAP)」の国際会議、国連大学のESD地域拠点(RCE)の世界会議およびアジア太平洋会議および伊勢志摩サミットにおける市民フォーラムにおいて、国内外のステークホルダーと意見交換および情報収集を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、国内では伊勢・三河湾流域圏(東海三県)において、国外ではガーナ共和国において、おおむね順調に調査を実施することができた。国内調査では、中部ESD拠点協議会の活動への参加型調査を通して、伝統知に関する情報収集をおこなうと同時に、ステークホルダーとのワークショップを重ねることによって、伝統知を用いたESDモデルの構築に関する課題を明らかにした。 2016年8月に海外調査を行ったガーナ共和国では、首都アクラの漁民であるガ民族のコミュニティ(オス地区)に入り、新年祭のホモウォ祭りの詳細を調査した。この調査において、ガ民族のオス地区における伝統首長権の社会構造およびトウモロコシの祭礼食を通じた食文化の一端を明らかにすることができた。その成果の一部は、日本宗教学会、日本アフリカ学会、イベント学会の学術大会において公開した。また、植民地都市としてのアクラの成立過程に関する歴史的な研究にも着手し、奴隷貿易で用いられたガーナ沿岸部の城砦群の現地調査も行うことができた。 持続可能な開発目標(SDGs)におけるESDの主流化に関する手法研究については、SDGsの開始年ということもあり、ユネスコおよび国連大学のESD関連国際会議において種々議論された。筆者は、ESDに関するユネスコ世界会議(2014年)で採択された「あいち・なごや宣言」に明示された地域知や伝統的な知恵の活用についての問題提起を行い、参加者と意見・情報交換を行った。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策については、初年度の調査結果をふまえて、更なる現地調査と考察を進めていきたい。国内調査については、引き続き伊勢・三河湾流域圏を対象地として、衣食住に関わる伝統知と地域知の調査を行う。これらの調査結果を分析し、伝統知ESDモデルの構築を試みる。また、東海地域以外の国内の取り組みにも視点を広げて、類似性と差異を分析することで伝統知を活用したESD推進手法の体系化をめざす。 海外調査については、ガーナ共和国のアクラを対象地として、植民地都市として発展した地域の文化研究を進める。特に、ガ民族が、太平洋三角貿易以降、西洋の影響を受け続けるなかで維持・発展させてきた伝統首長制に関する調査を行い、持続可能な社会づくりに資する役割について分析を行う。 持続可能な開発目標(SDGs)におけるESDの主流化の手法については、引き続き、ユネスコのESDに関するグローバル・アクション・プログラム(GAP)および国連大学認定ESD地域拠点(RCE)のネットワークを通じて国際的な動向を注視しつつ、本研究の成果を提示し、SDGs達成への貢献をめざす。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、当初計画していた機材等の物品費に関する出費が予想を下回った。その理由は、予定していたパソコンおよび大型プリンタの購入について、新機能を備えた機種が未発売であったため、次年度以降に見送ったためである。 また、旅費に関して、マレーシア調査を予定していたが、国際会議参加(自己資金)に合わせてインドネシアでの調査を行うことができたことにより、次年度以降に延期したため予定額を下回った。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度には、購入を見送ったパソコン等の機器の購入と、海外調査において繰越金を使用する計画である。2016年の持続可能な開発目標(SDGs)の開始に伴い、各国でESDとの関連において多様な取り組みが始まっている。そのため、海外調査については、本研究助成申請時に予定していた調査地よりも本研究にとって有益な対象地の候補が出てきているため、今後、精査して調査対象地を決定する予定である。 さらに次年度は、国内調査の回数を増やし、他地域における伝統的な知恵を用いたESDの事例調査を実施する予定である。
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