本年度の研究において,本研究の中心的アイデアであるカスケード型CES集計関数の性質について新たな知見を得た。 2入力の単純なCES集計関数の正当指数(exact index)として,Sato-Vartia指数が知られているが,多入力のSato-Vartia指数は,通常の多入力CES集計関数の正当指数とはならない。その一方で,カスケード型CES集計関数は(2入力より多くの)多入力集計関数でありながら,今回定義されたカスケード型Sato-Vartia指数がその正当指数となることが明らかになった。カスケード型Sato-Vartia指数はパラメータを推定することなく2時点間の指数を計算できるため,回帰分析によるカスケード型CES集計関数のパラメータ推定に役立つと考えられる。また,この指数は対数二次型(トランスログ型)集計関数と数値的に近似的であることも明らかとなった。 カスケード型CES集計関数は,産業間にわたる多産業・多要素単位費用関数の実証的推計とそれらによる(中間生産を陽にあつかう)一般均衡モデルの構築を可能にする。これまでの,同様のマクロ経済モデルにおいては,生産要素間の代替弾力性を1に固定するコブダグラス型の採用を余儀なくされてきたが,カスケード型CES集計関数によって,より観測値に即した分析が行えることになる。実際,これまで生産性ショックの波及に関する研究はコブダグラス型集計関数に基づいており,たとえば幾何ブラウン運動(対数正規分布)にしたがう生産性ショックの波及は(コブダグラスの性質により生産性ショックに対して不変の)コストシェア構造によって分散が大きくなるものの正規性は保存される。しかし,コストシェア構造が変化するカスケード型CES集計関数によるモデルでは,集計的ショックにファットテールが生じることなどは,現実をそれなりに描写しているといえるだろう。
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