研究課題/領域番号 |
16K00701
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松本 文夫 東京大学, 総合研究博物館, 特任教授 (20447353)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 空間 / 構築 / 環境 / 標本 / アーキテクチャ / デザイン / 記憶 |
研究実績の概要 |
本研究は「空間標本」という枠組を設定し、それをデザイン資源として新たな環境の構築に役立てることを目標にしている。「空間標本」とは、建築や都市の中から取り出された「空間の部分」のことである。社会環境(全体)から空間標本(部分)を抽出し、その蓄積から得られた知見をもとに、部分の連鎖としての新たな建築や都市の設計に結びつける。研究作業は空間標本の「収集分析」および「構築活用」の2つに大別される。収集分析研究では、関連する既往研究の調査を経て、空間標本の仕様策定・収集作業・類型分析を行う。構築活用研究では、空間の構築作業・構築原理抽出・活用実践を行う。 平成30年度は、収集分析と構築活用の研究を前年度に引き続いて継続した。第一に、空間標本の収集作業と類型分析を行った。平成29年度にとりあげた建築物のほかに総合研究博物館の建築模型コレクションを対象に加え、建築物の立地、機能、構造、形態、設計者、図面などの基本情報をまとめ、建築から読みとれる類型的特徴を抽出し整理した。第二に、空間の構築作業と構築原理の抽出を行なった。平成29年度の研究では、建築物の形態的特徴を抽出して「建築の記憶」という研究オブジェクトにまとめたが、平成30年度の研究では、建築物の概念的要素を抽出して再構築した「建築の抽象」という研究オブジェクトの制作を進めた。平成29年度から30年度への研究の進展のなかで、建築物の具体的・外形的な要素から、抽象的・深層的な構成への着眼が拓かれてきた。これは、空間標本が建築の印象を具体的に記述しうるとともに、建築の理念を抽象的に表現しうるツールであることを意味している。さらに、これまでの一連の作業を通して、劇場系の建築物に独自の空間的多様性があることを見出し、「劇場の集成」と称する研究オブジェクトの制作の準備に入ったところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
空間標本の収集分析は総合研究博物館の建築模型コレクションを対象に加えて順調に進み、空間標本の構築活用については、「建築の記憶」という研究オブジェクトを完成させている。引き続き、「建築の抽象」および「劇場の集成」という2つの研究オブジェクトの構築を進めているが、後者は検討をより精緻に進めるために新たに加えられた研究プロジェクトであり、当初計画外の作業時間を要している。ただし、空間の構築原理の知見を広く蓄積するうえで有用なプロセスであり、研究全体としては空間の創出活用のまとめに進む準備が整いつつある。
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今後の研究の推進方策 |
平成31(令和元)年度の研究では、これまでの「空間標本の収集作業と類型分析」および「空間の構築作業と構築原理の抽出」で得られた知見を生かして、空間の創出活用の実践を行う。教育活動の現場において、空間標本の収集から建築都市の設計に至る課題を設定する。空間標本のリソースを共有し、構築原理を導入することによって、さまざまな設計成果に結びつけることを企図している。具体的な研究オブジェクトとしては、平成29年度に制作した「建築の記憶」の次の展開として、平成30年度から「建築の抽象」(Abstract of Architecture)の検討を進めており、引き続き作業を継続する。これは、建築をデザインする上で主要な拠り所となる設計コンセプトや構造的アイディアを 抽象化してまとめた研究オブジェクトである。通常はプロジェクトごとにバラバラに検討されるコンセプトやアイディアを標本集成として統合することで、空間の創出活用ための知見を集約的に把握することを目指す。また、平成30年度末から新たに準備を開始した研究オブジェクト「劇場の集成」(Arena of Theaters) についても並行して準備を進めていく。これは劇場やホール等の空間的多様性に着眼した研究オブジェクトであり、構築活用研究を精緻にする上で有用と判断して追加された。これらの一連の研究オブジェクトをもとに、最終年度のまとめとして、空間標本の収集分析と構築活用の研究成果の総合的な検証と考察を行う。研究成果は報告書に整理し、研究オブジェクトは東京大学総合研究博物館小石川分館で展示することを予定している。単体の建築物とは異なる「空間標本」という枠組を設定し、これを用いてさまざまな空間を収集分析し、新たな空間の構築活用に結びつける可能性を具体的に示していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
空間標本をバラバラのアイテムではなく集約型の研究オブジェクトとして検討することにより、作業の取りまとめの時間差が発生した。また、研究成果を精緻にするために新たな研究オブジェクトを追加したため、その分の支出が先送りされた。平成31年度においては、研究オブジェクトの取りまとめのために適切な支出を行い、当初の研究計画の内容を完遂する所存である。
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