令和1年度は研究全体のまとめを行なった。収集分析研究では空間標本の収集分析のまとめと総合検証を、構築活用研究では構築原理の抽出のまとめと空間創出の活用実践を行ない、デザイン資源としての空間標本の可能性の総括を行なった。 第一に収集分析研究においては、平成29年度から令和1年度にかけての合計151の空間標本についての分析結果を整理した。内外の建築や都市空間の部分空間を対象に、類型的特徴を読み取った。390項目におよぶこれらの特徴からは、各標本に固有の指標と、複数の標本に共通の指標が認められた。 第二に構築活用研究においては、収集分析研究の類型的特徴から、対象空間の構築原理の抽出を試みた。「アイディアとカタチ」を結ぶさまざまな構築原理は3つのタイプに整理できる。カタチになる前のアイディアに関わる「プログラム系」、アイディアをカタチにする操作に関わる「デザイン系」、アイディアをカタチにする対象に関わる「スペース/エレメント系」の構築原理である。プログラム系の構築原理は思想・機能・関係を提起し、デザイン系の構築原理は設計・操作・構築を可能にし、スペース/エレメント系の構築原理は空間・構造・形式および部位・単位・階層に作用する。これらの構築原理は、アイディアとカタチを建築の部分空間から都市空間までのさまざまな尺度で連携統合する働きをなしている。 最後に、空間標本から抽出された構築原理を用いた「空間創出」の活用実践を行なった。「建築の記憶」、「住居の歴史」、「庭園建築群構想」、「建築の抽象」、「劇場の集成」などのプロジェクトの計画において構築原理を導入し活用した。 以上の実践をとおして、「空間標本」が人間の空間的遺産を再資源化するための重要な思考単位になりうること、また、空間標本の事例分析から抽出された「構築原理」が具体的な空間創出を実践する場面で有用な思考手段になりうることが確認できた。
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