京都は年々、外国人観光客の訪問数が増加の一途をたどり、それに応じて街の姿も大きく変貌した。観光客による消費額も増加している。しかし、伝統工芸品に関しては一時的に高額な工芸品が購入された時期があったものの、その動向は一過性に終わり、京都の伝統工芸の厳しい状況は変わらずに続いている。一方で、安価な販売を目的とした粗悪な工芸品らしいものが量産されている。つまり工芸品風の土産品が増加することにより、本物の伝統工芸品の存続が危ぶまれている。さらに職人の減少、後継者不足、需要の減少、原料の不足など伝統工芸を巡ってまさに危機的状況に瀕しているのである。社会が変わり、生活が変わっていく以上、この流れは止められず、これからも変わり続けることは避けられない。しかし、伝統工芸をめぐる間違った解釈を正し、間違った方向に向かうことを是正することは重要である。つまり伝統工芸の現状を捉え、今のうちに、伝統工芸の価値を見つめ直し、広く伝えることは非常に重要であると考えられる。本研究は、伝統工芸工房の職人、行政、大学の産官学が連携し、伝統工芸の技術、造形および文化的価値を再検証し、それをわかりやすく視覚化したかたちで、社会に発信していくことが目的である。 そのために大きく3つの方向性を設定した。一つ目は、伝統工芸技法を映像として撮影し、制作プロセスのわかりやすい解説とともに編集し、伝統工芸の展覧会等で一般の人に向けて上映することである。名工の方々の制作現場を動画で記録することは非常に貴重なアーカイブとなる。二つ目は、工房での取材、調査、インタビュー、撮影を綿密におこない、それらを冊子体として編集するものである。三つ目は、伝統工芸の技法を用いた新たな工芸品の企画と提案、デザイン試作を行なう。 以上の研究を連携して進めることにより、京都の伝統工芸の現状のいくつかの側面をあぶりだすことが出来た。
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