研究課題/領域番号 |
16K00708
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
川角 典弘 和歌山大学, システム工学部, 講師 (30252547)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 参加型デザイン / 討論支援 / デザインマネジメント / 仮想空間 / ワークスペース / AR/VR |
研究実績の概要 |
多人数参加及び多視点でのデザイン討論支援環境の構築にあたり,デジタルメディアによる強化現実(AR)技術を実空間に導入するとともに,デザイン討論のファシリテーション支援と討論プロセスを履歴として蓄積,再利用できることが必要と考えた。研究2年目の段階では,これらの討論支援ツールのプロトタイプ構築に取り組んだ。 ARによるデザイン検討作業を現地で周囲の状況を確認しながら行えるオンサイト(現地対応)型のツールの開発を行った。このツールは,事前に3次元モデルとして作成した検討案を組み込んだアプリとタブレット端末を利用して,検討対象を設置する現地にてARモデルを表示,複数の参加者が気づいたことやデザイン上の問題点をアノテーションマーカーとコメントでDBサーバに蓄積する。また,マーカーレス技術を用いるこことでモデル表示の煩わしさやマーカーのサイズによる表示範囲の制約を緩和することができた。 次に,多人数でのデザイン討論において,逐次追加・更新されるデザイン案の提示やコメントを保存するWeb対応のデータベース機能に加え,討論参加者のアイデアの展開や引用,コメントなどのやりとりを,グラフ理論をもとにしたセミラティス構造のビジュアルマップとして視覚化できるシステム環境とデザイン討論の量的・質的な評価技法の構築を行った。RDBに記録した討論記録をグラフ型DBにより,デザイン提案とコメントをリソースのノード(結節点),他の参加者からの引用や参照をリンク(関連)としてマップ化することで,視覚的にデザイン討論の展開を俯瞰することができる。 また関連研究として,仮想空間上に配置したモデルを指や手の動き(ジェスチャー)で操作できる次世代型のインターフェースの開発やデザイン活動のための空間構成やスペースのあり方について調査研究も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3次元モデルによるデザイン検討支援,AR/VRによる空間評価ツールの試作といったシミュレーション環境の構築,仮想空間上で模型やモデルを直感的な手順や操作で扱えるインターフェース,グループワークとしてデザイン討論をメディエートするファシリテーション技法,さらにはデザイン討論のためのミーティングスペースの什器やデバイスの整備などは個々の技術研究は順調に進んでいる。 一方で,HMD(ヘッドマウントディスプレイ)などのハードウェアの性能やAR/VRのプログラミング開発環境は,急速に変化しており,今後主流になるこれらの技術に十分対応しているとは言えない。特にHMD及びモーションジェスチャーによる仮想空間体験とモデル操作は,将来的な展望を含めた技術的考察が必要と考えられる。 最後に,これらの技術やツールは,試作として個別に開発に取り組んでいる段階で,統合的なシステム環境として十分に連携利用できるまでに至っていないことが課題となっている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度では,これまでに開発・試作を行ってきたツールの相互連携の強化を行い,デザイン討論支援システム環境の構築を目指す。第1に空間そのものをインターフェースとして利用し,デザイン討論に利用するシミュレーション機能の強化に取り組む。特にH30年度には,高性能化・低価格化が進んだ新しい仮想空間体験デバイス(AR/VR対応のHMDなど)とシステム開発環境が提供される。AR技術も従来のタブレット端末によるものから,没入感や空間体験性が向上したHMDを利用することで,ARコンテンツの表示位置のズレの解消,フォトリアルなイメージの表示など,これまで以上の空間シミュレーションが可能と考えている。 第2にデザイン討論で作成される様々な設計リソース(コメントやドローイング,3Dモデルなどのデータ)は,討論の流れを俯瞰し,手戻りの防止や設計マネジメントに有効であるが,プロトタイプでは,RDBからグラフDBへの連携が手作業であったので,これらのシステム連携に取り組む。 第3にAR/VRによるデザインモデルの空間表示は,現在,参照・閲覧は実現できているが,今後は,3DCGソフトでの編集や操作に不慣れな一般のユーザーでも直感的にモデルを操作したり,変更が行えたりする必要がある。そのため,討論支援ツールのユーザビリティの向上,インターフェースのデザインの見直し,さらには手や指の動きで仮想空間上のモデルを直接,扱えるようなエクスペリエンスを提供するモーションジェスチャー・インターフェースの実用化に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
HMDなどのAR/VRの表示デバイスの購入をH29年度中に検討していたが,H30年度以降に比較的低スペックのPCでも動作し,低価格の機材がリリースされるため,次年度に予算の一部の繰り越しを行った。またシステム開発用のPC購入にあたり,当初見積もりよりも低価格な機種でも性能的に十分であったため,同様に繰り越しとなった。 H30年度には,これらの新規リリースされた機材の購入やデザイン討論支援システムの利用と検証を行う実験のため,研究謝金などで執行する予定である。
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