平成29年度における拡張映像表現の手法追求に関して、当初の予定では鑑賞者の中心に疑似立体スクリーンを提示、疑似的にパノラマ表現し、左右の周辺視野情報として、中心のイメージに合わせたイメージを2D、および3Dで提示することで臨場感の有効性について検討する、としていた。しかし左右のイメージを追加するだけでなく、上下を含めたすべての周辺視野イメージを提示することで、臨場感につながる一つの要素である「包囲感」を創出することができると考え、平成30年度においては、当初の研究計画であった「コンテンツ制作および上映、評価検証」を、「立体映像を用いた包囲感を創出する多面提示手法の検討」と設定し、立体映像の拡張提示手法を更に向上させる計画に変更した。本研究の目的は、S3D映像技術を用いたコンテンツ制作を通して、「包囲感」を創出するS3D映像の多面提示手法と、それに適したS3D映像表現手法の効果について検証するものである。 文化財を対象としたS3D映像コンテンツを制作する際の映像表現の検討だけでなく、文化財が置かれているその場の状況を鑑賞者にいかに感じてもらうか、それが文化財の姿を視覚的に伝えるために重要であると考え、多画面構成の提示による広視野表現の追求を行った。包囲感を表現するために必要なのは、周辺視野の視覚情報であり、人の眼の隅に入る周辺視野のイメージが、映像の中の世界に自分がいると思い込める状況を作り出せると仮説を立て、多面提示撮影用のS3D カメラシステムを設計、構築し、さらに多面提示用の実験ブースを設計、構築して実験を行い、検証した。その結果、S3D による5面提示が最も評価が高かった。また多面提示におけるショットの切り替え表現に対する違和感もなく、本提示手法が有効であることが明らかにされた。本研究は、自身のコンテンツ制作から提示までを総括した実践的研究となった。
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