研究課題/領域番号 |
16K00711
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
伊原 久裕 九州大学, 芸術工学研究院, 教授 (20193633)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 情報デザイン / デザイン史 / Ladislav Sutnar / K. Lonberg-Holm / カタログ・デザイン |
研究実績の概要 |
グラフィックデザイナーのL. Sutnarと建築理論家のK. Lonberg-Holmが共同してデザイン制作したSweets Catalog社のカタログデザインに見られる理論とデザインを考察することが本研究プロジェクトの目的である。平成28年度は、まず両者の共同作業が成立する以前のLonberg-Holmの仕事に対象を絞って調査を行った。具体的にはLonberg-Holmが同僚の建築家T.Larsonとともに1940年に出版した著作『Planning for Productivity』の内容とデザインに注目し、その分析を行った。調査に際しては、Smith College図書館, Mary van-Kleeck Papers に収蔵されているLonberg-Holm と同書の出版元であるIndustrial Relations Institute(IRI)との間で交わされた通信文を中心に、ミシガン州立大学Bentholey Historical LibraryのT. Larson Papers所蔵のLonberg-Holmの関連資料も合わせて収集し、考察を行った。その結果『Planning for Productivity』の内容は、建築を対象とした「タイムゾーニング」と呼ぶ時間軸に基づくデザイン・生産プロセスのアイデアから発展し、生産領域の百科事典的な分類のアイデアが加わったことで成立したことが分かった。後者はIRIを通した多様な生産分野の関係者との接触から具体化したものであること、さらにIRIを通してアイソタイプで知られるOtto Neurathとの接触もあったことを示す資料も確認できた。以上より、従来CIAMの文脈で論じられることが多いLonberg-Holmの新たな像を示唆することができた。この成果については芸術工学会大会で発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、Lonberg-Holmの初期業績の解明を目的として、関連文献の収集をはじめ、アーカイブでの現地資料調査に際して、研究遂行に必要な資料をほぼ予定どおり入手できた。その結果、IRIとの関係をはじめ、重要なキーワードである「Flow」の初期の使用例についてもある程度確認できた。ただし、Lonberg-Holmのデザイン理論のひとつとして当初予測していた眼球運動とデザインとの関係については、それほど強い結びつきを示唆するものではなかったことが判明した。この点については、同時代には広告デザインへの眼球運動の応用の試みが始まっていたことも確かであることから、予定どおり平成29年度から開始するL. Sutnarの業績を対象としたデザインの分析と合わせて、調査を進めることとする。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、調査の対象をL. Sutnarに拡大して、資料収集を続ける。具体的には、Sutnar関連資料の収集を目的として、Cooper Hewitt, Smithsonian Design Libraryへの訪問を計画している。またグラフィックデザインの実物サンプルについては可能な限り入手する。1930年代から40年代のアメリカの広告デザインへの心理学実験の応用の事例についても調査を開始することとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
資料の収集に際して、当初見こみよりも低い金額で入手できたことが大きな理由である。また当初英語論文による国際会議での投稿を計画し、英文校閲を予定していたが、事情により変更を余儀なくされたことも要因のひとつである。
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次年度使用額の使用計画 |
資料調査を主とする研究のため、海外の関連アーカイブの訪問先を再検討する。まずは、Getty InstituteのTschicholdアーカイブにストナー関連の資料が所蔵されていることが判明したため、予定しているCooper Hewitt, Smithsonian Design Libraryに加えて、訪問先への追加を計画している。また、収集した資料の分析作業に人件費が発生する予定である。
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